分野紹介
腎臓発生分野

研究室のビジョン

腎臓発生を解明することによって、科学の進歩及び将来の腎不全治療に向けて貢献すること。

 

目標

独創的な論文を発表し、未発表 data もできる限り open に科学界と共有すること。

優れた論理的思考力をもち、かつ人のために尽くせる人材を育成すること。

 

本研究室では腎臓発生の分子機構を遺伝子改変マウスを使って研究しています。 Sall1 をはじめとして、腎臓発生に必須な遺伝子群を発見し、その機能を解析することで、腎臓発生機構の理解を目指しています(図1)。またその知識を使って ES/iPS 細胞からの腎臓細胞誘導法を開発することで、再生医療に向けた基盤を築きたいと考えています。

 

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図1

 

Science に携わる上で独創性、つまり他と違ったことをやるのは重要です。私たちは再生医療ブームになるずっと以前から、腎臓発生という未開拓の分野を切り開いてきました。そのため、切り口の独自性は、世界的にも注目されています。医学系、理学系、薬学系など様々なバックグラウンドをもった人間が協力して研究する必要があります。興味のある方は西中村隆一までご連絡ください( ryuichi の後ろに @kumamoto-u.ac.jp をつけてください)。

 

西中村は2016年4月より発生医学研究所長として、所全体の人材育成にも力を入れています。また共通機器の情報を共有し、それを使いこなせる技術支援員を配置することによって、若手研究者が効率よく成果を出せる環境を整備していくつもりです。

 

●西中村教授の苦労話 Part 3: 腎臓の高次構造を試験管内で再現 (2017.11.10)

●西中村教授の苦労話:腎臓組織誘導秘話 

●腎臓誘導のエピソード紹介:TV放送

●西中村教授の苦労話

●我々の研究室で研究してみたいという方へ

●西中村教授のBlog -腎臓発生研究の秘訣-

●腎臓誘導に関するインタビュー記事(JST News)

●パンフレット分野PDF (2013年度版)

●パンフレット分野PDF (2011年度版)

●国際先端研究拠点

NEWS

・太口敦博さんの論文がCell Stem Cell に掲載されました [NewPressへ] [論文リストへ](2017.11.10) 

・谷川俊祐助教が熊本大学研究業績表彰を受けました。おめでとうございます(2017.11.8)

・Shankhajit Deさんがポスドクとして研究室に加わりました (2017.10. 2)

・Fahim Haque obtained the PhD degree and graduated from the lab. We wish you further success in the future. (2017.9.25)

太口敦博さんの総説が実験医学に掲載されました (2017.9.25)

西中村教授が日本小児腎不全学会で講演しました(2017.9.22)

・太口敦博さんがドイツに留学されました。益々のご活躍を祈念します(2017.9.1)

・賀来祐介さんの論文がScientific Reportsに掲載されました [NewPressへ] [論文リストへ](2017.7.3) 

Development誌に西中村教授の執筆した理研シンポジウムのレポートが掲載されました [論文リストへ](2017.6.20)

・Fahim Haqueさんの論文がDevelopmental Biologyに掲載されました [NewPressへ][論文リストへ](2017.6.10)

・太口助教がRenal Expert Meeting(熊本)で講演しました (2017.4.27)

・西中村教授が日本内科学会で教育講演を行いました (2017.4.14)

地震に関しての西中村所長からのメッセージ (2017.4.14)

・田中悦子さんが大学院生として研究室に加わりました(2017.4.1)

・賀来祐介さんが大学院を卒業しました。今後もご活躍を期待しています (2017.3.31)

西中村教授が理研シンポジウムで講演しました (2017.3.28)

太口助教が日独ジョイント発生生物ミーティングで発表しました (2017.3.16)

谷川助教の総説がKidney Internationalに掲載されました (2016.10.17)

地震に関しての西中村所長からのメッセージ (2014.10.14)

西中村教授がEMBO/EMBLシンポジウム(ドイツ)で講演しました (2014.10.14)

テルモ財団による中高生向けの研究紹介HPに腎臓発生分野が取り上げられました (2016.9.14)

谷川俊祐助教が第7回分子腎臓フォーラムで優秀賞をいただきました (2016.9.3)

西中村教授がSanta Cruz Development Biology Meetingにおいて講演しました (2016. 8.15)

西中村教授からの地震に関するメッセージ (2016.7.14)

東大地震研から講師をお招きして熊本地震に関する特別セミナーを開催しました(2016.6.21)

・太口敦博助教が日本透析医学会で発表しました(2016.6.12)

腎臓発生分野が編集した「医学のあゆみ」が出版されました(2016.6.11)

地震に関しての西中村所長からのメッセージです(2016.5.2)

腎臓発生分野が編集した実験医学5月号が出版されました(2016.4.20)

・谷川俊祐助教の論文がCell Reportsに掲載されました [NewPressへ][論文リストへ][Facebook](2016.4.15)

・倉岡将平さん、長沼英和さんが大学院生として研究室に加わりました(2016.4.1)

・谷川俊祐さんが助教に昇任しました(2016.4.1)

西中村教授が発生研所長に就任しました(2016.4.1)

西中村教授による高校生・市民のための大学特別授業が動画で公開されました(2016.4.1)

西中村教授が京大iPS研究所・国際幹細胞学会シンポジウムで講演しました(2016.3.24)

太口敦博助教が日本再生医療学会シンポジウムで講演しました(2016.3.19)

・西中村の総説がNature Reviews Nephrologyに掲載されました [論文リストへ](2016.2.1)

・Sazia Sharmin’s paper was published in J Am Soc Nephrol. Sazia also obtained the PhD degree. Congratulations! [NewPressへ][論文リストへ](2015.11.20)

・大森智子さんの論文がScientific Reportsに掲載されました[論文リストへ](2015.10.29)
・田中聡さんが熊本保健科学大学に栄転されました。おめでとうございます(2015.10.1)
・谷川俊祐さんの論文がStem Cell Reportsに掲載されました [NewPressへ][論文リストへ](2015.8.27)
・Mazharul Islamさんが大学院生として研究室に加わりました。Mazharul Islam joins the lab as a graduate student.(2015.4.30)
国際先端研究拠点の公募を開始しました(2015.4.30)
・永松翔さんが大学院生として研究室に加わりました(2015.3.26)
New ZealandからAlan Davidson博士が来日し、講演されました(2015.3.26)
値賀正彦さんの論文がInt J Dev Biolに掲載されました(2015.3.25)
西中村教授が文科省の検討会で発生研のリエゾンラボについてプレゼンしました(2015.3.13)
信州大学特任教授市川家國先生を招聘して、生命倫理の講習会を開催しました(2015.3.3)
・田中聡助教が熊本医学会奨励賞をいただきました。おめでとうございます(2015.2.10)
西中村教授のインタビュー記事が鉄門だよりに掲載されました(2015.1.7)
熊本大学テレビ放送公開講座(熊本朝日放送)で腎臓発生分野が紹介されました(2014.12.27)
太口敦博さんの総説がKidney Internationalに掲載されました(2014.12.3)
太口敦博さんが井上研究奨励賞を受賞しました。おめでとうございます(2014.12.2)
・西中村教授、田中助教、太口助教が日本分子生物学会で口頭発表しました(2014.11.26-27)
・太口敦博さんが熊本大学研究活動表彰を受けました(2014.11.10)
西中村が日本生化学会で講演しました(2014.10.18)
・村上陽一さんが大学院生として研究室に加わりました(2014.10.1)
・山口泰華さん、田中聡さんの論文がStem Cellsに掲載されました[NewPressへ] [論文リストへ](2014.9.29)
・Asia-Pacific Kidney Development Workshop (ニュージーランド) において、 西中村、太口、谷川が口頭発表、賀来がポスター発表しました(2014.9.22-23)
太口敦博さんが分子腎臓フォーラムで優秀賞をいただきました(2014.9.6)
熊本医師会館でKEY Forum – From Stem Cells to Organs を開催しました(2014.9.4-5)
・西中村隆一教授が発達腎研究会で講演しました(2014.8.31)
発生研全体の清掃管理をしていただいた寺本さんが退職されました。9年間本当にありがとうございました(2014.8.28)
・Mariam Recuencoさん、大森智子さんの論文がJ Am Soc Nephrolに掲載されました[NewPressへ][論文リストへ](2014.8.28)
西中村隆一教授が品川で講演しました(2014.8.8)
・太口敦博助教がIRCMS seminar(於発生研)で発表しました(2014.7.31)
西中村隆一教授が日本小児泌尿器科学会(横浜)で講演しました(2014.7.11)
・太口敦博助教が日本腎臓学会で口頭発表し、会長賞を受賞しました(2014.7.6)
・当研究室の成果が熊本大学の新聞広告(朝日、読売)に掲載されました(2014.7.4)
・太口敦博助教が国際幹細胞学会(Vancouver)で口頭発表に採択され、travel awardを受賞しました(2014.6.19)
・八代中学、舞鶴高校の学生さんが見学に来られました(2014.6.13)
・西中村隆一教授が日本糖尿病学会で講演しました(2014.5.24)
・西中村隆一教授と太口敦博助教がAsian Pacific Congress of Nephrology(東京)で口頭発表しました(2014.5.16)
・吉村仁宏さんが大学院生として研究室に加わりました(2014.5.13)
太口敦博さん(助教)と西中村教授のインタビュー記事がJST News5月号に掲載されました(表紙は誘導した腎臓組織の写真です)(2014.5.2)
国際科学技術財団の若手研究助成で選考委員長を務めました。受賞者へのお祝いの言葉です(2014.4.23)
・神田祥一郎さん、谷川俊祐さん、大森智子さんの論文がJ Am Soc Nephrolに掲載されました[NewPressへ] [論文リストへ](2014.4.17)
・太口敦博さんが助教に着任されました。さらなる活躍を期待しています(2014.4.1)
西中村教授と太口敦博さんのインタビュー記事がWEBマガジン「熊大なう。」に掲載されました(2014.3.31)
西中村隆一が日本解剖学会(栃木)で講演しました(2014.3.29)
太口敦博さんがRIKEN CDB symposiumで口頭発表しました(2014.3.12)
・太口敦博さんが日本再生医療学会で口頭発表しました(2014.3.4)
日本科学未来館のBlogに西中村教授のインタビュー記事が掲載されました(2014.2.5)
・太口敦博さん(大学院博士課程)の論文がCell Stem Cellに掲載され、全国のテレビや新聞でも紹介されました [NewPressへ] [論文リストへ](2013.12.13)
・Fahim Haqueさんが大学院生として研究室に加わりました。Fahin Haque joins the lab as a graduate student. Welcome to Japan! (2013.10.1)
・藤本由佳さんが大学院を卒業され(在学期間短縮)、優秀学生として学長表彰も受けました。おめでとうございます(2013.9.30)
・藤本由佳さん、田中聡さんの論文がDevelopmental Cellに掲載されました [NewPressへ] [論文リストへ](2013.8.27)
・谷川俊祐さんの共著論文がNature Cell Biologyに掲載されました [論文リストへ](2013.8.26)
International Workshop on Developmental Nephrologyがエジンバラで開催され、西中村 (Organizing Committee member) と谷川俊祐さん (Travel award) が口頭発表を行いました(2013.6.24-26)
・豊田大地さん、太口敦博さんの論文がPloS Oneに掲載されました <論文リストへ>(2013.6.18)
・谷川俊祐さんが特任助教として着任されました(2013.6.1)
・賀来祐介さん、大森智子さんの論文がアメリカ腎臓学会誌 (J Am Soc Nephrol) に掲載されました [NewPressへ] [論文リストへ](2013.5.2)
・Mariam RecuencoさんがSwedenのKarolinska研究所に留学されました。Mariam Recuenco left the lab to join ・Karolinska Institut. We wish you further success in Sweden(2013.5.1)
・神田祥一郎さんが東京女子医大助教として転出されました。小児腎臓医としての活躍を期待しています(2013.4.1)
・技術補佐員の工藤邦子さんと熊谷真帆さんが退職されました。3年間ありがとうございました(2013.3.31)
田中聡さんの論文がPLoS Oneに掲載されました(2013.3.4)
・阪口雅司さん(現ハーバード大学研究員)の論文がNature Communicationsに掲載され、新聞やテレビで報道されました[NewPressへ][論文リストへ](2013.1.30)
第12回日本再生医療学会(横浜)でシンポジウム「器官臓器再生」をオーガナイズしました(2013.3.22)
くまもと医療都市ネットワーク医療講演会で「ヒトiPS細胞を用いた再生医学への展望」について講演しました(2013.1.26)
第35回日本分子生物学会(福岡)でワークショップ「器官形成 -3次元構造の構築」をオーガナイズしました(2012.12.12)
第16回心血管内分泌代謝学会(東京)で講演しました(2012.11.24)
・阪口雅司さんがHarvard大学Joslin糖尿病センターに留学しました(2012.7.4)
・寺林健さんの論文がPLos Oneに掲載されました (2012.6.29)寺林さんはスウェーデンのウプサラ大学Ludwig 研究所に留学しました
・日本遺伝子治療学会(熊本)で講演しました(2012.6.29)
日本腎臓学会(横浜)でシンポジウム 「腎臓を創るー乗り越えるべき課題と方策」を主催しました(2012.6.1)
Sall4に関するハーバード大学との共同研究がCell Stem Cell誌に掲載されました(2012.3.2)
鉄門だより(東京大学医学部同窓会誌)にエッセイが掲載されました(2012.2.10)
・日本分子生物学会でシンポジウム「Development and regeneration of internal organs」を主催しました(2011.12.13)
・太口敦博さんがアメリカ腎臓学会で口頭発表に選ばれました(2011.11.12)
・The11th Asian Congress of Pediatric Nephrologyで講演しました(2011.6.2)
腎臓発生分野・藤本由佳さんがCold Spring Harbor Asia Conferenceで最優秀口頭発表賞を受賞(2011.10)
2010年度
2007年度
2006年度

研究プロジェクト

  腎機能が失われると、水分と種々の毒性物質が蓄積し、意識混濁、肺水腫による呼吸困難、高カリウム血症などで死に至るため、人工透析が必要となります。さらに腎臓は内分泌器官としても重要で、レニンを産生することによって血圧の調節にも関わり、ビタミンDの活性化を通して骨代謝にも関わります。またエリスロポエチンの主要産生臓器であるため、腎不全では赤血球維持に異常をきたし、重度の貧血となります。東大時代の当研究室をサポートしていた Amgen 社によるエリスロポエチンの発見によってこの問題は解決されましたが、エリスロポエチンはほぼ一生にわたって週に数回投与する必要があり、医療費の高騰を招いています。日本で人工透析を受ける人は 32 万人を超え、増加の一途をたどっています。腎不全は難病指定とされ、その医療費の社会的負担は年間1.5兆円に上っています。このような状況にもかかわらず、腎機能が一旦悪化するとそれを改善させる画期的な治療法はいまだ存在せず、最終的には透析導入となります。腎臓の再生を目指すには、腎臓がどうやってできるか、つまり腎臓の発生を解明することが必須であると考え、研究に取り組んでいます。

 

私たちの研究室は、遺伝子改変マウスを用いて腎臓発生を研究するという、極めて独創的な領域を開拓しています。

 

1.腎臓形成に必須な遺伝子群の同定と機能解析 

多くのノックアウトマウスを作成することによって、 Sall1 を初めとして腎臓形成に必須な遺伝子群を同定しています。その機能を解析することによって、複雑な腎臓形成を単純化し、分子の言葉で語れるようになってきています。

 

2.腎臓前駆細胞における分子機構の解明

成体の腎臓は再生しませんが、胎児期の腎臓には多能性の前駆細胞が存在することを証明しました。ここに Sall1 など多数の遺伝子が発現しており、そのネットワークを解明することで、前駆細胞を維持する分子機構を明らかにしようとしています。 

 

3.機能する腎臓を試験管内で創る

腎臓発生の知識を使って、 マウスES及びヒトiPS 細胞から腎臓前駆細胞を経由して3次元の腎臓組織を試験管内で誘導することに成功しました。今後、腎臓の他の系譜細胞を誘導することによって、より大きくかつ機能する腎臓を試験管内で創ることを目指します。

 

 

 

 

西中村教授の苦労話 Part 3: 腎臓の高次構造を試験管内で再現 (2017.11.10)

 

  2017年11月9日(日本時間11月10日)Cell Stem Cell誌に論文を発表しました。腎臓はネフロン前駆細胞、尿管芽、間質前駆細胞という3つの前駆細胞から形成されます。私たちは4年前に、マウスES細胞とヒトiPS細胞からネフロン前駆細胞を誘導してCell Stem Cell誌に報告しましたが、今回は2つ目の前駆細胞である尿管芽を、マウスES細胞とヒトiPS細胞から誘導することに成功したという論文です。本来、尿管芽は複雑に分岐し、原尿を一本に集める構造を作るわけですが、誘導した尿管芽はマウス、ヒトともに分岐できます。さらに、マウスES細胞から誘導したネフロン前駆細胞と尿管芽に、3つ目の間質前駆細胞(これはまだES細胞からできていないので、代わりにマウス胎仔から取ってきたもの)を混ぜ合わせると、複雑に分岐した尿管芽の先端にネフロン前駆細胞及びネフロンが分布するという、腎臓に特徴的な高次構造が再現できました。ヒト胎児由来の間質前駆細胞が入手できないので、ヒトで同じことはまだできてきませんが、間質前駆細胞がヒトiPS細胞から誘導できれば、理論的にはヒト腎臓の高次構造が作れる可能性がでてきたことになります。そもそもこのように分岐する複雑な構造は、3Dプリンターでも使わないと作れないと考える研究者も多かったわけですが、今回の結果は、正しいものを誘導してあげれば、細胞だけで可能ということを示しています。
 この仕事は太口敦博さんが一人でやり遂げたものです。4年前のネフロン前駆細胞の誘導も彼の仕事であり、それに引き続いての大きな成果に心から敬意を表します。特に、小さいマウス胎仔を多数使った実験は、端から見て大変なものでしたが、彼は淡々とこなしていました。実は2014年9月には分岐する尿管芽が早くもできたのですが、そこから条件を最適化し、いくつもの謎を解き明かすことで、完璧な誘導法を仕上げてくれました。しかし、もう少しというところでの熊本地震 (2016年4月)。発生医学研究所は建物や研究機器に甚大な被害を受けました。所長になって2週間の私は過労死するかもと思いながら事にあたりましたが、太口さんを含む多くの若手研究者が率先して復旧に取り組んでくれ、全国からも多くのご支援やご寄附をいただいたおかげで、復旧が早く進みました。改めて御礼申し上げます。2017年3月時点で内部と研究機器は完全に復旧しており、建物の修復工事ももうすぐ始まります。私たち研究者は研究しかできないので、今回のような研究成果の報告をもって恩返しとさせていただければありがたいです。
 私としては1996年に腎臓発生研究を始めてから21年、太口さんは2009年から8年かけて、ここまでたどり着きました。しかし、3番目の間質前駆細胞を誘導しなければならないし、血管を取り込み、排出路である尿管を作り、移植して尿をつくるという機能を持たせねばなりません。やるべきことはまだまだありますが、腎臓を作るという21年前の私の「夢」は、既に到達可能な「目標」になっています。一つずつクリアしていけば必ず到達できるはずです。ラボの現メンバーの皆さんの更なる奮闘と、より若い世代の参入を期待しています。一方、太口さんは新たな視点を学ぶためにこの9月からドイツに留学しており、彼がさらに成長して腎臓研究に戻ってくることを心待ちにしています。かつての教え子である長船さんや高里さんも既に研究室を主宰しており、日本全体として腎臓発生・再生研究が加速しています。またアメリカでも20を越える研究室がコンソーシアムを組んで研究しています。私の夢は思ったより早く実現できるかもしれません。その日を目指して、私自身ももうひと頑張りしたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。

 

 

 

私の苦労話 2014 :腎臓組織誘導秘話

 

 2013年12月12日(日本時間12月13日)Cell Stem Cell 誌に論文を発表しました。簡単にいうと、マウスESとヒトiPSから糸球体と尿細管からなる3次元の腎臓構造を試験管内で作成したということです。私はこれを達成するために研究者の道に進んだので感無量です。カエルでは試験管内で腎臓(前腎)がアクチビンとレチノイン酸で作れることを20年前に浅島誠先生が発表しました。これを哺乳類で実現して腎不全の患者さんを助けたいと思い、1996年大学院卒業が確定した2月に、浅島先生と共同研究を始めました。とは言っても当時は、腎臓を作れるわけがない、腎臓発生研究はscienceなのですか、などと批判され、参加する学会もなく、砂漠を歩くような日々の連続でした。「俺が死ぬ前に、どんなに小さくても良いから試験管の中で作った腎臓をもってこい。そしたらYou winと言ってやる」とアメリカの研究者に言われたこともあります。それでもカエルとマウスを使ってSall1など新たな遺伝子をみつけることによって(2001年)、少しずつ腎臓発生のメカニズムを明らかにしていきました。そして2006年、Sall1を発現する細胞群がネフロン(糸球体や尿細管からなる腎臓の最小機能単位)の前駆細胞であることを提唱しました。他のグループによっても証明され、糸球体や尿細管をつくるSall1/Six2陽性のネフロン前駆細胞が存在することが確立しました。
 ではこのネフロン前駆細胞を作るにはどうしたらよいか?Sall1の上流にあって、ネフロン前駆細胞の起源と思われていた中間中胚葉に発現するOsr1のGFPノックインマウスを2007年に作成し、さらに遡ろうとしましたが難航していました。そこに太口君が大学院生として入ってきました(2009年)。彼にこのテーマを託したものの、最初の数年はやはりうまくいかず、ラボ内にはこんな不確実な実験を継続することに批判もありました。しかし太口君の実験は結構いい線をついていると感じていて、やりたいようにやってもらいました。ネフロン前駆細胞ができる1日前のOsr1陽性の細胞から誘導できる条件をみつけたのが最初の成功でした。しかし、さらに1日前からの誘導がどうしてもうまくいかない。ここまでかと思い始めた頃、Osr1陰性の方からうまくいくことがあると太口君が言ってきました。ネフロン前駆細胞の起源は実は中間中胚葉ではないのではないか?Osr1陰性の部分には下半身を作る体軸幹細胞が含まれています。ではこの細胞をラベルしたら本当に腎臓になるのかを確認したい。それができる遺伝子改変マウス(T-GFPCreER)はどこにいるのか?同じ研究所の佐々木教授に尋ねてみたところ偶然彼が作ってもっていました。それもマウス棟の同じ階にいた!これを直ちにいただいて太口君が試したところ、確かにT陽性の細胞がネフロン前駆細胞の起源であることがわかりました。そこでこの細胞からネフロン前駆細胞を試験管内で誘導できる条件を探しました。ここも太口君の健闘で、発生機序に沿った条件が確定し、2012年3月ついにネフロン前駆細胞が誘導できました。つまりT陽性の体軸幹細胞様細胞が途中でOsr1陽性に変わり、さらにネフロン前駆細胞ができるわけだったので す。これが大きなブレイクスルーでした。
 ここまでできれば、理論的にはES細胞からT陽性細胞を経由してネフロン前駆細胞ができるはずです。太口君は結構自信ありげでしたが、経験を積んでいる私はそれがそう簡単ではないことを知っています。実際彼は相当苦心しましたが、2012.9.7にESから作ったネフロン前駆細胞から糸球体と尿細管ができていることがわかりました。これを顕微鏡で確認したときには、私はさすがに感極まってしまいました。自分が一生かけても達成できないかもしれないと思っていた夢が現実になった瞬間でした。涙ぐんで彼に何度も「ありがとう」と繰り返しました。
 ここで論文を投稿したのですが、世の中は甘くない。ヒトでもやらないと駄目ということでした。マウスでできたからといってヒトですぐできるわけではありません。もしかしたらまた数年かかるかもしれない。とはいえこれを見越して、大学院生のSaziaさんと賀来君とで、ヒトiPSの培養系は一通り立ち上がっていました。太口君にもiPS細胞培養法を伝授し、彼がマウスES細胞で組んだプロトコールを試してもらったところ、わずか2ヶ月ほどでヒトでも糸球体と尿細管の誘導条件を決定してくれました。腎臓の発生過程はマウスとヒトとで驚くほど似ていたわけです。またアクチビンとレチノイン酸は、カエル、マウス、ヒトに共通して誘導に必須であることになります。
 今回の太口君の快挙の秘訣は、発生機序を十分に理解して論理的に条件を設定した上で、それでも予測範囲外のことまで試したことだと思います。Osr1陽性だけではなく捨てるはずの陰性細胞を試したこと。普通使う試薬濃度の10倍を試してそれが正解だったこと。知識と経験を積むにつれて絞り込み方がうまくなるものですが、それでも自分の考えを越える可能性を愚直に試す努力を怠らないこと。「研究者は頭がよくなくてはならない。と同時に頭が悪くなくてはならない」と寺田寅彦が言ったといわれますが、このことを指しているのでしょう。
 今回の成果は私が20年間追い求めていたものです。患者さん達の人生を背負って生きてきたつもりなので、本当に感無量です。しかし現時点では大きさも成熟度もまだまだです。それには、もう一つの腎臓構成要素である尿管芽をつくって、ネフロン前駆細胞と組み合わせ、本当の3次元の腎臓を作らねばなりません。さらにそこに血管を通して尿を作らせ、機能を持たせる必要があります。これにはまだまだ長い時間がかかるでしょうが、試験管内での腎臓作成という私の夢は、夢物語ではなく達成可能な「目標」になったのだと思っています。一日でも早くこの「目標」を達成したいものです。患者さんは一日千秋の思いでその日を待っています。みんなありがとう!そしてこれからも頑張りましょう。

 

腎臓誘導に関するインタビュー記事 (JST news)

 

 

私の苦労話 2005

 

 1991年当時カリフォルニアのDNAXの宮島篤(現東京大学分子細胞生物学研究所教授)、北村俊雄(現東京大学医科学研究所教授)、新井賢一(前東京大学医科学研究所長)らはインターロイキンレセプターが2つのヘテロダイマーからなっているというところを解き明かしつつありました。その中で一方のサブユニットがIL-3, GM-CSF, IL-5で共通ではないかというところまで明らかになってきていました。ところが当時はノックアウトマウスというものを作ることができるらしいという話があった程度で、まだ医科研のどの教室もノックアウトマウスの作成はうまくいっていなかった。そんなときにいきなり新井賢一さんから「君がノックアウトマウスを作りなさい」と言われたわけです。ラボでは誰もネズミすら扱っていなかったし、もちろん研究を始めたばかりで、大腸菌を増やすところからES細胞の培養、胚盤胞へのインジェクションまで全部一人でやりました。ところが医科研でいくらやっても、ノックアウトマウスを作る途中のステップであるキメラマウスまではできるけど、ES細胞由来の細胞が子孫を作る細胞に入らない、いわゆるジャームラインにのらなかった。今から見ると使ったES細胞とES細胞の下に敷く細胞が悪かったのですが、当時はそんなことはわからないまま、no dataで2年半がすぎました。ちょうどそのときにDNAX研究所から、ジャームラインにのったという話が伝わってきました。DNAX研究所はもともと新井教授が設立に携わっていたのでコネがありました。3ヶ月行かせてくれと交渉して、それから1年、2年と居座って研究を続けました。これは確かだというDNAだけを持っていって、もう一度ES細胞への導入からやり直しました。結局計5年かけて作ったノックアウトマウスが、DNAX研究所としても最初のノックアウトマウスになりました。そのノックアウトマウスの作成によって、IL-3, GM-CSF, IL-5などそれぞれのシグナルが伝わらないことによって起こる異常が次々にわかってきたわけです。GM-CSFのシグナルが入らないと肺胞蛋白症になり、骨髄移植によって正常な肺胞マクロファージを補ってやるとそれが治ること、IL-5のシグナルがなくなると好酸球が減少することなども、このノックアウトマウスの解析の結果わかったことです。

 2年が過ぎて、研究が一段落した後、アメリカでポスドクのポストを探しました。もともと腎臓内科医なので、次は腎臓の分野でオリジナリティのある仕事をしたいと思って、ノックアウトを使って腎臓の発生をやっているようなラボを探したんですが、まだそんなラボは存在していなかった。そのときに東大医科研にAMGENの寄附講座として幹細胞シグナル分子制御部門ができて、助手として雇えるよ、という話が来ました。アメリカはいいところで、日本に帰るのもつまらないなと思っていましたが、「日本に帰ってきて嫁さん探しもしたらどう?」とも言われて戻ってきました。嫁さんはすぐに見つかって、戻ってきて正解でした。

 新井先生の助教授だった横田崇先生(現金沢大学教授)が教授として独立していたので、そのラボに所属して腎臓の発生の研究に入りました。ラボ自体は血液細胞やES細胞のサイトカインシグナルの仕事をしていましたが、そのなかで一人だけ腎臓の仕事をさせてくれと交渉して始めました。ノックアウトマウスを作る技術は持っているわけですから、どの遺伝子をつぶしたらおもしろいかを考えました。すでに他人がやっているものは競争が激しいのでオリジナルのものをとらないといけない。以前浅島誠先生(東京大学総合文化研究科教授、アクチビンの発見で知られている)から、アフリカツメガエルのアニマルキャップと呼ばれる部分にレチノイン酸とアクチビンを加えると腎管ができるという話を聞いていました。そこで浅島研に入り浸って、アフリカツメガエルの卵からアニマルキャップを1000個以上取って、腎管ができる条件とできない条件とを比較して、腎臓発生に関する遺伝子の検索を行うという実験を繰り返しました。時間経過や引き算の条件もいろいろと変えてみて、候補遺伝子が取れたらそれが腎臓に発現しているかどうかを確認し、さらに全長のcDNAを取って機能をみる、という作業が3年続きました。なかなかよい候補遺伝子が取れませんでした。最初はSall遺伝子は腎臓以外にも発現していることがわかっていたので、候補遺伝子として取れた後、より詳しい解析の候補からははずしていました。しかしカエルの遺伝子をもとにマウスのSall1遺伝子をクローニングして発現を調べたら、発生途中の腎臓に強く発現していることがわかりました。そこでこれをもっと詳しく調べてみようと思って、ノックアウトマウスを作ることにしました。胎生期のマウスの腎臓の位置もわからないところから始めたので、ノックアウトマウスの解析も苦労しましたが、ある日8匹生まれたマウスのうち2匹が死んでいて、その2匹を調べたら腎臓がない。そして生き残ったほかのマウスを調べたら腎臓がある、ということがわかって、ようやくSall1の腎臓特異的な働きがわかりました。その後、Sallファミリー遺伝子のノックアウトマウスを作って、最近はSall4の遺伝子を取って、そのノックアウトを作りました。とてもおもしろい表現型が出ています。また、Sall1から4まですべてのノックアウトマウスを持っていますから、それぞれを掛け合わせることによって、腎臓以外の組織でもSallファミリーのタンパクがそれぞれ補い合って働いていることがわかってきました。またサルオロジー(Sall学)ばかりやっていても仕方ないので、Sallの上流、下流のシグナルがどうなっているのかをもとに腎臓の発生のメカニズムを解き明かそうとしています。すなわち、腎臓におけるSallファミリーの解析をもとに腎臓の発生のメカニズムを明らかにして、それがSallファミリーの発現しているほかの組織においても普遍的なものであるかを検証していこうという研究の流れです。そしてこれらの知識を使って最終的には腎臓が作れたら良いなと思っています。

 

私の苦労話 鉄門だより2015版(PDF)

私の苦労話 鉄門だより2012版(PDF)

 

 

若い人へのメッセージ

 

 僕はこのSall1の遺伝子を取るまではさすがにつらくて、くじけそうになったことがありました。所属していたラボの上の人たちも辞めていった時期があって、そのときに以前の僕の業績を知っている人から、血液をもう一度やってみないかという誘いを受けたことがあります。全く腎臓のデータはでないし、誘いをうけようかなと考えたときに、新井賢一先生から「おまえは腎臓の発生をやるんじゃなかったのか。他人の芝生が青いからといってそっちにひょろひょろいくのか。」と言われました。「他人のフェロモンに引き寄せられてよそへ行ってしまうのではなくて、ここできちんとデータを出して、自分のフェロモンを出して、他人を自分のところに引き寄せられるようになれ。お前はそうなれるはずだ。」といわれて、うーんそんな無茶なと思いながらそこでまた踏ん張ったので今の自分があるのかなと思います。だから若い人も他の環境を羨むばかりではなくて、何とか現状を乗り越えていって他の人に影響を与えられるようになってほしいと思います。簡単な言葉で言うと、黒川清先生(腎臓内科医時代の上司、元日本学術会議会長)から聞いた言葉ですが、「イチローも松井も偉いんだけど一番偉いのは野茂である。」新しい道を切り開く人が一番偉いのであって、そのあとに人は引き寄せられてついてくる。その一番最初のパイオニアになりなさいということ。そういう意味ではどちらも同じことを言っていると思います。

 

我々の研究室で研究をしてみたいという方へ

 

 熊本大学発生医学研究所には、全国から若手の人材が集まっています。私達の腎臓の他に、神経、血液、膵臓、肝臓など臓器形成の研究室が集まっており、またより基礎的な研究室も多数あり、共同研究が可能です。使う材料もハエ、カエル、マウス、ヒトと多彩です。我々のラボは9階建ての4階にあり、快適な環境で研究しています。すぐ横には、大学のなかでは日本有数の動物施設(CARD)があり、我々のマウスもそこで飼育します。維持はそこの職員によって行われ、また体外受精、cleaningなどの作業もやってもらえます。我々のマウスもこの施設が主導するマウスバンクに寄託し、homepageにのせて世界に供給するシステムになります。大学院HIGOプログラムによる学生への経済的サポートもありますし、極めて高度で面白い研究環境だと思っています。

 

熊本が田舎だという方へ

 

 その通りです。東京にくらべれば非常に小さい街です。しかし、研究を大都市でやる必然性があるでしょうか?毎週、オペラやコンサートに行く方は確かに東京が便利ですが、研究者のほとんどは研究ばかりやっていてあまりそういうことは少ないのではないでしょうか。むしろ家賃が安く、メシがうまく、すぐ近くに阿蘇や温泉、海など自然があって、週末に息抜きができる環境の方が適していると私は思います。当然研究室やマウス施設の面積も広いわけで、研究環境としては十二分です。東京とも飛行機で1時間半ですし、関西まで新幹線で3時間、そんなに大変でもありません。わたしも頻繁に日帰りしています。情報の遅れを心配されるかもしれません。しかし現在はinternetにより情報のtime lagは無くなっています。学会は確かに大都市で多いですが、大都市にいてもその全部にでるわけではありませんから、得られる情報はたいして変わりません。特に私の研究室は腎臓発生という珍しい研究をしているので、日本の学会で他の人のdataを気にしてビクビクすることはありませんし、頻繁に他からの情報が必要な研究は今後もしないつもりです。海外の研究室と国際学会やメールで情報交換すれば十分ですし、むしろ熊本から世界にむけて新しいdataを発信すべきだと考えています。アメリカに留学された方ならわかると思いますが、アメリカの都市のほとんどは非常に小さい街です。それが点在しており飛行機で往来します。彼らは小さくて自然の多い街で生活をエンジョイしながら、研究しています。私もアメリカから東京に帰ってきたときは生活の質の低下に悩みましたが、ようやく熊本で人間らしい暮らしができるようになりました。

 

 

西中村 隆一

1987年東京大学医学部卒業後、4年間腎臓内科医として勤務。その後東京大学医科学研究所分子生物学研究部(新井賢一教授)及び米国DNAX研究所において血液系サイトカインGM-CSF/IL-3/IL-5受容体のノックアウトマウス作製解析を行う。1996年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了後、東京大学医科学研究所幹細胞シグナル分子制御研究分野助手。2000年客員助教授。2004年熊本大学発生医学研究センター・細胞識別分野教授、東京大学医科学研究所客員教授。2009年熊本大学発生医学研究所・腎臓発生分野教授。2010年より副所長、2016年より所長。遺伝子改変マウスとES/iPS細胞を使って、腎臓を中心とした臓器発生を研究している。学生、ポスドク募集中。興味がある方はいつでも御連絡ください。