ニュープレス

⇒NewPress一覧へ

分  野腎臓発生分野
掲載日2014年 9月 8日
タイトル
非筋肉型ミオシンII は未熟なネフロンの形態形成を制御する

Mariam C. Recuenco*, Tomoko Ohmori*, Shunsuke Tanigawa, Atsuhiro Taguchi, Sayoko Fujimura, Mary Anne Conti, Qize Wei, Hiroshi Kiyonari, Takaya Abe, Robert S. Adelstein and Ryuichi Nishinakamura (2014) Non-muscle myosin II regulates the morphogenesis of metanephric mesenchyme-derived immature nephrons.  J. Am. Soc. Nephrol. Epub ahead of print

* These authors contributed equally to this work.

 腎臓の最小機能単位はネフロンとよばれ、主に糸球体と尿細管から構成されています。これらはネフロン前駆細胞が上皮化し形を変えていくことで作られます。しかしこの形態変化に細胞内骨格がどう関わっているのかは不明でした。腎臓発生分野(西中村隆一教授)では、以前にKif26bというキネシンがネフロン前駆細胞の接着を制御することを報告し、これに結合する因子として非筋肉型ミオシンII を同定していました (Uchiyama et al. Proc Natl Acad Sci USA, 2010)。そこで、同分野のMariam Recuenco(現フィリピン大学Los Baños校)、大森智子らは、非筋肉型ミオシンII をコードする遺伝子Myh9とMyh10をネフロン前駆細胞由来の系譜でノックアウトしたマウスを作製しました。するとネフロン形成が重度に障害され(図・上段)、すべてのマウスが生後すぐに死亡しました。未熟なネフロンの管腔伸長が阻害されて(図・下段)細胞死を起こしてしまうせいであり、ネフロン上皮管腔側のミオシンによる収縮が不十分なためと考えられました。さらにネフロン前駆細胞の接着が低下し、出生時の前駆細胞数も減少しました。したがって非筋肉型ミオシンII は未熟なネフロンの形態形成及び前駆細胞の維持に必須であることが明らかになりました。一方Myh9の単独欠失マウスでは近位尿細管が拡張して、生後に腎不全を呈しました。しかしヒトMyh9の遺伝性変異疾患においては、尿細管の拡張ではなく糸球体硬化病変が認められることが知られています。この違いの原因を解くには、やはりヒトの腎臓でミオシンの機能を解析する必要があります。腎臓発生分野の太口敦博らは、ヒトiPS細胞からネフロン前駆細胞を経由して糸球体と尿細管の誘導に成功しており (Taguchi et al. Cell Stem Cell, 2014)、患者由来のiPS細胞からの病態再現が期待されます。本研究は、腎臓学のtop journalであるJournal of American Society of Nephrology誌電子版に2014年8月28日先行掲載されました。

 

np73

図 非筋肉型ミオシンII欠失マウスにおける初期ネフロンの形態異常 
(上段)未熟なネフロン(矢印)は、コントロールではS字型だが、Myh9/10欠失では形がおかしい。

(下段)コントロールでは一つの管腔が伸びているのに対し、ノックアウトでは途切れて枝分かれしている。上皮の頂端側に発現するaPKCで管腔を赤く、基底側で発現するNCAMで初期ネフロンの輪郭を緑に染色。