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分  野腎臓発生分野
掲載日2013年 2月 8日
タイトル
BMP シグナル制御分子 Dullard は生後の腎臓の維持に必須である

Masaji Sakaguchi, Sazia Sharmin, Atsuhiro Taguchi, Tomoko Ohmori, Sayoko Fujimura, Takaya Abe, Hiroshi Kiyonari, Yoshihiro Komatsu, Yuji Mishina, Makoto Asashima, Eiichi Araki, and Ryuichi Nishinakamura (2013) The phosphatase Dullard negatively regulates BMP signalling and is essential for nephron maintenance after birth. Nature Communications 4: 1398. (doi: 10.1038/ncomms2408)

 胎児期に 腎臓が 形成される機構は徐々に明らかになりつつあるが、形成された腎臓が出生後に どのように維持され成熟して、大人の腎臓になっていくかはほとんど解明されていない。

 腎臓発生分野(西中村 隆一教授)では、カエルとマウスを用いて腎臓形成に関わる遺伝子 群を同定してきた。 タンパク質脱リン酸化酵素 Dullard は発生期のカエルの腎臓から単離された もので、 BMP シグナルを抑制することによってカエルの初期発生を制御する。しかし遺伝子の同定から 10 年以上過ぎても、 Dullard の哺乳類における役割は腎臓を含めて不明のままであった。また BMP は胎児期の臓器形成に必要な液性因子であり、腎臓でもその重要性が報告されている。そこで 阪口雅司研究員(腎臓発生分野及び熊本大学医学部附属病院代謝内分泌内科学所属、現在米国ハーバード大学ジョスリン糖尿病センター研究員)らが、 腎臓の前駆細胞で Dullard を欠損させたマウスを作成したところ、予想に反して胎児期の腎臓はほぼ正常に形成された。しかし出生後数週内に腎臓の中心部が細胞死によって消失して空洞化し、すべてのマウスが成体になる前に死亡した(図 A )。 Dullard が欠損することによって、 BMP シグナルが過剰に入って腎臓の細胞死が引き起こされたためであった。さらにこの Dullard 欠損マウスに BMP シグナルの阻害薬 LDN193189 を投与すると、腎臓の症状が改善された。よって Dullard が BMP シグナルを抑制して適度なレベルに保つことが、出生後の腎臓の維持に必須であることが明らかになった(図 B )。つまり、生まれてから大人になるまで、腎臓は単に大きくなるのではなく、 Dullard によって積極的に維持されていることになる。

 この研究は、今まで見過ごされがちだった出生後つまり小児期の腎臓の維持の重要性を示すもので、小児期の腎臓疾患の病因解明や治療に向けた重要な情報となる 。 Dullard や BMP シグナルの異常がヒトの病気の原因になっているか、それを BMP シグナルの阻害薬で 治療できるか、など 今後の展開が期待される。 この研究成果は 2013 年 1 月 29 日に Nature Communications 誌に掲載された。

 

np56図: BMP シグナル制御分子 Dullard は生後の腎臓の維持に必須である
A. Dullard を腎臓特異的に欠損させたマウス(右)では、生後数週間内に腎臓中心部が急激に消失して空洞化する。生後3週の腎臓の断面図(左は正常マウスの腎臓)。
B. Dullard が BMP シグナルを抑制して適度なレベルに保つことで、 細胞死が抑えられ、生後の腎臓が維持される。