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分  野腎臓発生分野
掲載日2017年11月10日
タイトル
多能性幹細胞を用いて胎児腎臓の高次構造を再現

Atsuhiro Taguchi and Ryuichi Nishinakamura.

Higher-order kidney organogenesis from pluripotent stem cells

Cell Stem Cell, on line (2017)

 

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日本経済新聞

熊本日日新聞

朝日新聞全国版にも掲載

胎児の腎臓は、「ネフロン前駆細胞」、「尿管芽」、「間質前駆細胞」と呼ばれる大きく分けて3種類の前駆細胞群*1が互いに作用しあうことによってその立体構造(高次構造)を形成します。腎臓発生分野の太口敦博助教、西中村隆一教授らはこれまでに、マウスES細胞*2およびヒトiPS細胞*3といった多能性幹細胞*4からネフロン前駆細胞を誘導する方法を確立していました(図1)。これにより、多能性幹細胞からネフロン前駆細胞を経て、糸球体や尿細管を含むネフロンと呼ばれる腎臓を構成する「小構造」を作製することに成功していましたが、その他の前駆細胞が含まれないために腎臓本来の「高次構造」の再現はできていませんでした。

今回、同分野の太口助教と西中村教授は、特にネフロン同士の接続や配置といった腎臓の高次構造の形成に特に重要な役割を果たす「尿管芽」に注目し、多能性幹細胞から尿管芽を誘導する方法の開発を行い、腎臓の高次構造の再現に成功しました(図2, 図3)。

これらの成果は、腎臓という複雑な臓器の形を試験管内でどのように再現するかという課題に対する基盤的戦略を提示するとともに、その実現可能性を示したものです。また、この技術を用いることで、先天性腎疾患を中心とした遺伝子異常に伴う腎臓の病態を再現できる可能性があり、病因の解明と創薬開発に繋がることも期待されます。

本研究成果は、Cell Stem Cell 誌電子版に2017年11月9日掲載されました。

 

*1 前駆細胞:特定の体細胞の元になる細胞。発生過程で受精卵のような多能性細胞から最終分化した細胞に至る中途段階の細胞。

*2 ES細胞:受精卵から作られた多能性幹細胞。胚性幹細胞。

*3 iPS細胞:皮膚や血液などの体細胞から作られた多能性幹細胞。人工多能性幹細胞。

*4 多能性幹細胞:ES細胞やiPS細胞など、様々な体細胞に分化し得る細胞。

*5 オルガノイド:人工的に試験管内で作製された器官に似た立体的な組織構造体。

 

図1 これまでの多能性幹細胞からの腎臓組織作製法

 

 

図2 今回報告した多能性幹細胞からの胎児腎臓高次構造の再現法

 

図3 マウスES細胞から再構築された腎臓の高次構造(緑:集合管、赤:ネフロン前駆細胞)