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分  野腎臓発生分野
掲載日2014年 11月 5日
タイトル
転写調節因子Sall4はマウス始原生殖細胞の運命決定において体細胞遺伝子の発現抑制に働く

Yasuka L. Yamaguchi, *Satomi S. Tanaka, Maho Kumagai, Yuka Fujimoto, Takeshi Terabayashi, Yasuhisa Matsui and *Ryuichi Nishinakamura (*corresponding authors).
Stem Cells, 2014 (DOI: 10.1002/stem.1853)

 私たちの体の中には、生殖細胞と体細胞がある。体細胞は、私たちの体を作り、生殖細胞は、次世代を作り出す。生殖細胞と体細胞は、体を作り始める初期の段階で枝分かれし、別々の細胞になる。それでは、生殖細胞は、どのようにしてできてくるのでしょうか?

 今回、腎臓発生分野(西中村 隆一教授)の山口 泰華研究員(元 G-COE 研究員)・田中 聡助教らは、転写調節因子Spalt-like 4 (Sall4)が、マウスの生殖細胞への枝分かれにおいて重要な役割を担っていることを明らかにした。Sall4は、胚性幹(ES)細胞が様々な細胞に分化できるように多分化性を維持する機構や、同じく多能性幹細胞であるiPS細胞を作り出す際の効率を上げる因子の1つとしても知られている。着床初期のマウス胚では、Sall4は、主に生殖細胞のもとである始原生殖細胞に強く発現している。この始原生殖細胞で、Sall4を働かないようにしても、多分化性の維持に関わる遺伝子(例えば、Pou5f1)は発現していた。しかし、本来、生殖細胞ではその発現が抑えられるべき体細胞分化に関わる遺伝子(例えば、Hoxb1)は、抑制されずに発現してしまっていた(図)。これは、Sall4が、Hoxb1遺伝子のゲノム領域の近傍に直接結合して、発現を抑えていたためであった。また、始原生殖細胞となった細胞は、将来、精巣または卵巣が作られる体の前方領域に向かって移動を開始する。しかし、Sall4が働かない生殖細胞は移動できず、精巣または卵巣に到達できなかった。以上のことから、Sall4は、生殖細胞への枝分かれにおいて体細胞遺伝子の発現を抑えると同時に生殖細胞が移動を始める鍵の役割を担っており、これは、Sall4の変異等により遺伝子の発現異常を起こした始原生殖細胞が、次世代を作り出さないことを保証する仕組みの1つと考えられる。SALL4は、上肢の形成異常や眼球運動制限を伴うヒトの遺伝病であるOkihiro症候群の原因遺伝子としても知られており、この分子機能の解明は、その発症機序や治療法の開発にも繋がることが期待される。本研究成果は、 Stem Cells 誌電子版に2014 年9月29日先行掲載されました。

 

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図:Sall4はマウス始原生殖細胞の運命決定において体細胞遺伝子の発現抑制に必須である

(A) 胎齢7日のマウス胚の横断切片の明視野像(胚後端部側を図右側に配置)。(B–C”’) 図A内の点線で囲った領域の拡大図。(B, C) 生殖細胞マーカーPou5f1の免疫染色像(緑), (B’, C’) 体細胞遺伝子Hoxb1の免疫染色像(赤)、(B”, C”)それぞれの併合図、(B”’, C”’) DAPIによる核染色像(青)。