分野紹介
胎盤発生分野

胎盤は哺乳類の発生に欠かすことのできない臓器であり、その異常はさまざまな疾患の原因となります。

しかし、発生学において、胎盤は胎児の発生をサポートする脇役的な扱いを受けてきました。とくに、ヒトの胎盤発生に関する研究は、他の臓器に比べて大きく遅れています。

 

私たちの研究室では胎盤が主役です。

私たちが開発を進めてきた幹細胞培養技術を駆使して、着床から出産に至るまでの胎盤発生過程を再現し、その制御機構の解明を目指します。

さらに、得られた知識を生殖補助医療や妊娠合併症の治療に役立てていきたいと考えています。

 

大学院生募集

胎盤の発生・疾患・進化に興味を持ち、一緒に研究を行ってくれる大学院生を募集しています。研究室では、重要な問題を自ら発見し、丁寧な観察にもとづく研究成果を論文として発表する力を養ってもらいたいと考えています。そのために必要な知識や技術の習得を全力でサポートします。興味のある方は岡江まで気軽にご連絡ください。

 

研究プロジェクト

 

1.ヒト着床のin vitro再現とその制御機構の解明

ヒト胚の着床には、胎盤のもととなる栄養膜細胞と子宮内膜細胞の相互作用が重要だと考えられています(図1)。

しかし、この相互作用にどのような分子が関わっているのかについてはほとんど分っていません。

私たちは、ヒト栄養膜細胞幹細胞(TS細胞)を培養する技術を開発し、この細胞が着床期の栄養膜細胞と似た性質を持つことを報告してきました(図2)(Okae et al. Cell Stem Cell 2018)。

また、ヒトの子宮内膜細胞から単離した細胞を用いて、生体の子宮内膜組織を模倣したオルガノイドの開発を進めています。本研究では、ヒトTS細胞と子宮内膜オルガノイドの共培養系を確立することで、ヒト胚着床の謎に迫ります。

 

 

2.妊娠合併症の治療法の開発

胎盤の異常は、妊娠高血圧腎症や胎児発育不全など、さまざまな妊娠合併症の原因になりうると考えられています。

しかし、そもそもなぜ胎盤が異常となるのか、そして胎盤の異常がどのような仕組みで妊娠合併症を誘発するのかについてはあまり良く分かっていません。

私たちは、妊娠合併症を発症した胎盤からTS細胞を作り出し、試験管内で病態を再現する研究を行ってきました(Takahashi et al. PNAS 2019など)。

本研究では、この疾患TS細胞の培養技術を活用し、妊娠合併症の新たな治療法の開発を目指します(図3)。

 

 

3.胎盤進化の分子機構の理解

哺乳類は1億年以上前に胎盤を獲得したことで、さまざまな環境に適応し、勢力を拡大することに成功しました。胎盤は哺乳類の臓器のなかで進化的に最も新しいものの一つで、その形態や遺伝子発現は多様です。

例えば、私たちはヒトとマウスの胎盤のエピゲノムを比較し、遺伝子の発現調節機構に大きな違いが見られることを報告してきました(Hamada et al. AJHG 2016, Okae et al. PLoS Genet 2014)。

本研究では、さまざま動物種からTS細胞を樹立し、その性質や遺伝子機能を比較することで、胎盤の多様化をもたらした仕組みを分子レベルで明らかにします(図4)。