当研究室では博士課程の大学院生を募集しています。
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(1) iPS細胞を使った疾患研究
難病の患者難病の患者より同意を得て、皮膚由来線維芽細胞と血液細胞の収集を行うと同時に、疾患由来iPS細胞の樹立を行っている。疾患研究では、先天的に起こる代謝異常症や加齢性神経変性疾患、自己免疫疾患などの研究を行っている。先天代謝異常症とは、糖質代謝、脂質代謝、アミノ酸代謝の経路、いずれかの異常によって起こる、組織・臓器障害の総称である。主に代謝酵素の遺伝子変異による活性低下が原因である。多くが中枢神経障害を症状にもち、その重症度が予後を左右する。この中でも脂質代謝異常であるGM1ガングリオシドーシス(GM1G)、テイ・サック病(TSD)、シアリドーシス(SD)、ゴーシェ病(GD)、ニーマンピック病C型(NPC)を主に研究している(図1)。
これらの疾患では、欠損酵素やトランスポーターの基質である中間代謝物質の体内での蓄積や上昇が起こる。頻度はそれぞれ1-2人/10万人であり、合わせて、国内に500名以上の患者がいると推定される。加えて、加齢性神経変性疾患であるアルツハイマー病や自己免疫疾患である強皮症の研究を行っている。iPS細胞よりシナプスを形成する成熟中枢神経細胞の誘導方法を確立し、シナプス機能をイメージングによる解析する方法を確立した(図2)。
この方法を用いて、エクソサイトーシス能の著名な低下(これは前シナプスでの神経伝達物質放出能の極端な低下を示唆)という共通の機能異常表現型をGM1G、TSD、SDにて明らかとした(図3)。
この表現型はモデルマウスの初代培養の神経細胞でも見られた。加えて、SDにて、後シナプスでのカルシウム動態の過剰な反応という機能異常表現型を明らかとした。GM1Gでは、正常神経細胞に原因酵素の基質を加えて蓄積させることで、これらの表現型を再現できるので、中間代謝物質の蓄積がこの異常機能や細胞死の原因となっていることを明らかとした。また、GM1Gにて、細胞死抑制や蓄積物質減少効果をもつ化合物がシナプス機能異常を改善させることも明らかとした(図4)。
また治療薬開発では、前述の疾患において、モデル細胞での効果をもつ候補3剤、モデル動物での有効性確認済3剤、治験薬剤2剤、計8剤を開発中である。先天代謝異常症では、中間代謝物蓄積抑制が治療効果を生むという新コンセプトのもと、中間代謝物の蓄積を可視化した化合物スクリーニング系(HTS)を複数疾患で樹立した。これらのHTSと神経細胞での異常表現型を効果判定に用い、既知薬ライブラリーから、複数のヒット薬を同定した。このヒット薬は、神経細胞でのGM1ガングリオシドの蓄積を有意に減少させて、試験管内でのシナプス機能を改善させることから、GM1Gの治療薬候補となりえることを明らかとした。さらに、NPCではデキストリン化合物が疾患モデルマウスの神経障害による運動機能障害の進行を抑制し、生存期間を延長もさせて、生命予後の改善効果があることを明らかとした。
(2) 遺伝子修復技術の研究
ヒトのゲノムには 遺伝病の原因となる約4万の疾患特異的一塩基多様体(single nucleotide variants, SNV)が存在し、それらが単独または複数が組み合わさることで何らかの遺伝性疾患が発症する。疾患SNVのゲノム修復医療実現への第一歩として、疾患特異的iPS細胞におけるアレル特異的一塩基置換法 One-SHOTを開発した(図5)。CORRECT, MhAXなどの従来法では2回の遺伝子操作が必要であったが、本法は、1. 一回の遺伝子操作使用、2. 編集済クローンを識別するための新しい一塩基ミスマッチ検出PCR法の開発、3. 薬剤耐性遺伝子の一時的発現による遺伝子導入クローンで、実施・終了できる。加えて、4. 一塩基変異を識別する高い標的識別能をもつ新しい編集ツールの濃縮、5. マスタープレート維持による培養操作の省力化、6. 鋳型としてssODNの使用、といった構成要素を組み合わせることで、実施時間とコストを従来法の1/3程度に短縮・減少させた。
(3) 間葉系幹細胞の研究
間葉系幹細胞は成体の骨髄や脂肪組織に広く分布し、線維芽細胞状の形態をもち、試験管内にて増殖可能の組織幹細胞である。この細胞は、骨、軟骨、脂肪細胞に分化できる能力を持ち、それ以外にも、筋肉細胞など様々な間葉系細胞へ分化する能力をもっている。成体の骨髄や脂肪組織に存在する間葉系幹細胞は、胎生期の中胚葉にその起源があることを、遺伝子改変マウスを使い明らかとした(図6)。また胎生期には、神経上皮細胞や神経堤細胞から生まれる間葉系幹細胞も認められるが、出生後急速に消失することも明らかとした(図6)。これらの発生学の新知見をもとに、ヒトiPS細胞から異なる2つの中胚葉と神経上皮由来間葉系幹細胞を誘導することに成功した。2つの間葉系幹細胞は、褥瘡や変形性関節症モデルマウスへの治療効果を有するが、その効果が異なる。この原因の1つが2つの幹細胞の分泌する分泌因子の差によることを明らかとした。