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熊本地震から11日   2016.4.25

2016.04.25 ●ニュース

熊本地震から11日

 

 

発生医学研究所 所長 西中村 隆一

これまでの所長からのメッセージ
発生研内外の皆様へ 2016.4.19
発生研及び全国の皆様 2016.4.15

 

発生研の建物は倒壊の可能性は非常に低いことが確認されていますが、その損傷はかなり深刻です。外壁パネルが剥離し、余震による落下の危険性があるため、立ち入り制限が続いています。外内壁のヒビ割れが貫通し、雨水が廊下など内部に侵入しています。1階建ての会議室棟と9階建ての研究棟の間にも亀裂が入り、雨が中まで染み込んでいます。中層階 (3-6階)の窓は歪み、開かないあるいは開けたままで動かず、雨が吹き込むのでビニールで目張りしました。高層階 (6-9階)では給水管、ガス管が損傷し、漏水が発生、ラボの一部と全階のエレベーターに水が流れ込みました。研究室は特に高層階の被害が大きく、実験台、PC、顕微鏡、CO2 インキュベーター、クリーンベンチなど多くのものが落下・転倒しています。FACS, 質量分析計、高速シーケンサーなどの共通機器も中・高層階にあったため、その多くが落下・転倒しました。これらの一部は、建物の周囲をわざと割れやすくして衝撃を吸収する仕組みの結果でもあるのですが、中層階を軸にして高層階が強振したことを示唆しています。

 

我々の最優先課題は、研究に携わる人の安全確保です。発生研は他施設に比較して建物自体の損傷が大きく、早急に対応しなければなりません。大規模な修復が必要ですが、余震のため現状把握に留まっています。例えば外壁の修理にはゴンドラや足場が必要です。余震の減少と交通網の回復とともに専門の方々が集まり、一日も早く修復作業が開始されることを願っています。

 

研究室及び機器の再整備は2段階に分けたいと考えています。まず高層階の基本的な設備(実験台、顕微鏡、解析用PC、クリーンベンチ、細胞培養用インキュベーターなど)を復旧して強固に固定するとともに、一部の機能を低層階に移転します。次いで、発生研自体の研究及び全国共同研究拠点としての活動を支える先進的な設備(細胞分離装置FACS、質量分析計、高速シーケンサー、共焦点顕微鏡など)については、5月中旬までに現存機器の点検を完了する予定です(余震がおさまり各メーカーの熊本入りを待つ必要があるため)。しかし落下転倒により明らかに修復困難な機器が多数存在するのも事実です。建物、研究室、機器の復旧には多大の費用と時間がかかります。

 

しかし、我々は打ちひしがれているわけではなく、むしろテンション高めで頑張っています。学生や留学生には、安全確保のために他県あるいは母国に広域避難してもらいましたが、熊本に残った人間は毎日昼に所内全員が集まります。午前中は各ラボを片付け、昼に全館放送がかかり、教授陣のカンパで用意したおにぎりやパンをかじりながら情報共有して、団結して復旧に取り組んでいます。青木さんから建物の、関さんや谷さんから機器の状況が報告され、各ラボからの情報提供と活発な意見交換から素晴らしいプランが生まれます。太口さん、日野さん、江崎さん、曽我さんをはじめとする各ラボの若手スタッフが、復旧の具体的な手順を考案し、それを午後に全員で手分けして実行してくれます。情報は玄関に設置したホワイトボード及びメールで共有され、小椋さん、臼杵さんによってHP, Facebookに掲載されます。丹羽さん、中村さんは対外交渉を担当し、中尾さんと私は多くの報告書・要望書を作成しています。本震発生時に発生研8階にいて、負傷しながらも無事帰還された嶋村さん、畠山さんも顕微鏡復旧担当として活躍しています。ここには書ききれませんが所員全員がそれぞれの担当を持ち、一体となって働いた結果、落下・転倒していた機器はとりあえず安全な場所に移され、4/22には所内に水を通すことができました。水浸しになったエレベーターも1基は復旧しましたし、4/25には各階ごとに機器を接続して漏電機器を除外します。その後はそれぞれの機器の機能検定に進むことになります。

 

発生研は奇跡的に停電しなかったため、フリーザー内の貴重なサンプルは維持されています。また隣接する生命資源研究・支援センターは、発生研より建物の損傷が少なく、そこで飼育されるマウスの損失も最小限に留まっています。これは研究の再開にあたって大きな希望です。またこれまで蓄積してきたサイエンスの成果も発表されつつあります。4/14の地震当日には谷川さんがCell Reportsに論文を発表しました。地震報道でかなり縮小されましたが、それでも多くの新聞やネットで報道されました。腎臓発生分野が編集した実験医学の最新号も発売されましたし、今後も成果がでる度にご報告させていただきます。一日でも早く通常の状態に復帰して、サイエンスを再開したいと願っています。発生研復興のための基金も設置させていただきました。研究所内外の皆様のご協力とご支援をよろしくお願いいたします。

 

追伸
地震発生から10日以上が過ぎ、余震は850回を超えました。家が損傷し、あるいは恐怖心から、車中泊を続ける所員もいます。私自身も家と車を併用していますし、家族は広域避難させました。ガスの復旧はまだまだで、風呂に入れず、調理もままなりません。水が復旧していない地区もあります。肉体的、精神的に疲れが出てくる時期です。発生研の皆さんは、決して無理をせず、できる範囲でのご協力で十分です。限界が来る前に休む、病院を受診する、広域避難する、などされてください。また発生研で作業する際にはスピードではなく安全第一でお願いします。これは長期戦です。頑張り過ぎないことも大切です。