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平成28年熊本地震後の実験機器の固定について(再掲載)

2018.09.11 ●ニュース

平成28年熊本地震後の実験機器等の固定について(抜粋版)

2018年6月 一部改訂

 

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問い合わせ先:熊本大学発生医学研究所 リエゾンラボ研究推進施設
TEL: 096-373-5786
Mail: imeg*kumamoto-u.ac.jp (*を@に変えてください)

 

この度の熊本地震で当研究所は大きな被害を受けました(研究所における推定震度 前震5強ー6弱、本震6強)。この文書は我々の体験と機器固定法をまとめたものです。地震はまたどこで起きるかわかりません。我々自身の今後の教訓とするとともに、全国の皆様の地震対策の一助になれば幸いです。

 

所長コメント「地震から6ヶ月」

熊本地震後の発生研の状況写真

 

 

教訓(まとめ)
・低い実験台とそれに載っている高額機器は見落としがち
・実験台と機器の両方を固定すべき
・床への固定をメインにし壁固定はサブに(壁だけの固定は弱い)
壁に固定できないものは床からの荷締めベルトを使用
・高層階の機器固定はより強固に。あるいは低層階に移設する

・滑り止めシートも落下防止には有効だろう。
・バイオ研究者は、都市ガス(自動停止する)より炭酸ガスを閉じよ(ボンベの根元で)
・液体窒素業者が被災した場合は、基生研IBBPセンター (大学連携バイオバックアッププロジェクト)に相談 Mail: ibbp*nibb.ac.jp (*を@に変えてください)

 

 

1.実験台
被災状況・教訓

実験台と機器の両方が揺さぶられると落下する可能性が高くなるので、両方を固定すべき。東北地震以降人的被害を念頭に高い棚は固定されていたが、低い実験台とそれに載った高額機器は見逃されたものが多かった。また壁で固定していても、壁の素材が弱いために外れたものも多く、床をメインに、壁をサブとして固定すべきである。

 

8−9階では、給排水管・シンク・ガス管が付属した長さ数メートルの中央実験台が数十センチにわたって移動したため、試薬・機器の転倒・落下のみならず、給排水管、ガス管が断裂した。幸いガスは自動停止して漏れなかったが、大量漏水の一因になった可能性がある(漏水は徐々におき、床下いっぱいに溜まって下の階の天井から漏れて発見された)。これだけ大きければ動かないだろうと思わず、水・ガスがつながっている実験台は強固に床に固定すべき。

 

耐震施策
壁面実験台、サイド実験台の床(コンクリート、樹脂オーバーレイ)への固定を行った(図1)。中央実験台の一部についても同様の固定を行った。一部の作業台については異なる様式で固定した(図2)。壁面への固定については、壁の材質が石膏ボードで十分な強度が期待できないことから重点的には行わなかった。

 

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図1 実験台の床への固定

(左)L型ステー(t=3.6 mm、幅10 mm)、セルフタッピングネジ(4ミリサイズ、L=20 mm;床面はコンクリート用)
(右)ブラケット(t=2.0 mm, 幅 50 mm)。床面は雌ネジアンカーを打込み、ステンレスボルト(M6、L=20 mm)で締結した。

 

 

2.実験機器
被災状況・教訓
実験台上に設置した機器の転倒・落下が多額の被害を引き起こした(FACS, 次世代シーケンサーなど)ため、床と実験台、実験台と機器、の両方の固定が必要である。5階以上の高層階では、CO2 インキュベーター、クリオスタット、クリーンベンチなどの転倒が多発した。これら重心が高い位置にある床設置機器の固定も重要である。車輪付きで未固定の床設置機器については、移動によって転倒を免れたと思われるケースも見受けられたが、付属コード等の長さを越えて移動し、引っ張られて転倒したものもある(質量分析計がこのケース)。よって床あるいは実験台への強固な固定と荷締めベルトを多用することになった。滑り止めシートも落下防止のために併用した。

 

耐震施策
1)床設置の機器(クリーンベンチ、フリーザー、冷蔵庫、インキュベーター、遠心器、オートクレーブ、ガスボンベスタンド等)の固定(図2~5)

 

a. 各種金具による機器脚部の床面への固定、または本体底部の拘束(図2~4)
床面(コンクリート、樹脂オーバーレイ)への固定は、雌ネジアンカーとステンレスボルト(M6、L=20 mm)による締結(図2,3)。車輪付き機器については輪留めによる固定(図4)。

 

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図2 実験機器の床面への固定法
(左)爪型金具によるクリーンベンチ脚部の床面への固定。(右)金属ブラケットによる冷蔵庫底部の拘束。

 

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図3 ガスボンベスタンドの床面への固定。雌ネジアンカーの打込み(右)。

 

 

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図4 輪留めによる固定

 

 

b. 機器下部の拘束と荷締めベルト等による転倒防止(図5)

 

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図5 (左)荷締めベルトと底部ブラケットによるインキュベーターの固定。(右上)アンカー部の取付け。(右下)さらに突っ張り棒による補助的な転倒防止対策。

 

 

2)実験台、作業台上の機器固定(図6~14)

 

a. 荷締めベルト等による固定(図6~8)

 

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図6 卓上機器に対する荷締めベルトによる固定

(左)卓上CO2インキュベーターの拘束、落下、転倒防止。アンカー部は実験台に固定し(4ミリサイズタッピングネジ)、インキュベーター本体の強度部材に通してベルト脱落を防止。(右上)荷締めベルト、ブラケットによる卓上シークエンサーの固定。台もブラケットで固定。

 

 

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図7 荷締めベルト、底部ブラケットによる次世代シークエンサーの固定

 

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図8 (左)荷締めベルトによるタイムラプス顕微鏡補器類の拘束。ベルトの接触部にはノンスリップマットを敷き、ベルトのずれを防止。(右)ワイヤーによる実体顕微鏡の落下防止。使用者による設置位置の自由度を確保しつつ、落下しない仕様とした。

 

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図9 金具による実験台天板への固定

(左)爪型金具によるFACS脚部の固定。天板への固定は5ミリサイズタッピングネジ。(中)汎用金具によるインキュベーターの実験台への固定。天板へは4ミリサイズの木ネジ、インキュベーター本体は穴あけの上、M4ボルト&ナットで締結。(右)特殊金具による次世代シーケンサー脚部の拘束。天板への固定は5ミリサイズタッピングネジ。

 

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図10 専用金具による除震台への顕微鏡の固定。

 

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図11 固定具(樹脂製)による顕微鏡類の固定
本体、天板への固定は両面粘着材による。

 

c. 滑り止め材による設置(図12)

 

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図12 (左)ノンスリップマットによる滑り防止(激しく揺れる船内での研究機器の落下防止にも実績ありとのこと)。(右)シリコンパッドによる振動吸収と滑り防止。

 

d. 引き出し、戸棚のロック(図13)

 

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図13 収納庫開き戸のロック
市販の耐震用品。両面粘着材で取り付け。

 

 

3.オフィス等における耐震施策
被災状況・教訓
つっかえ棒や固定により、書棚は転倒を免れたものが多いが、書籍は多数落下した。怪我防止や脱出路確保のために、チェーンやベルトによる落下防止、あるいは開放棚からキャビネットへの変更を推奨する。縦置きしたデスクトップ型PCや液晶ディスプレイは、転倒し破損したケースが多く見られた。研究データの保全、地震直後の緊急連絡・情報共有などのためにも、耐震ゲル、ワイヤー等による固定が必須(すべり止めシートも可)。研究所のネットワーク中枢のサーバー等は尚更である。

 

耐震施工
1)書棚の落下防止(図15)

 

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図15 (左)チェーン、(右)ベルトによる書棚の落下防止。

 

2)パソコン、ディスプレイ等OA機器類の固定(図16、17)

 

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図16(左上)ノンスリップマットによる滑り防止。(右上)ベルクロバンドによるラックへの固定。(下段)ワイヤーによるワークステーション、ディスプレイの転倒、落下防止

 

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図17 大型ディスプレイのアーム支持による転倒、破損防止

 

 

有用なURLや業者の情報

東北大学教育研究用機器 転倒防止技術指針
http://www.bureau.tohoku.ac.jp/somu/saigaitaisaku/pdf/01_gijyutsushishin.pdf

 

旭精機(今回共通機器の固定を担当) *誤ったURLを載せておりました。訂正してお詫び致します。(2018.6.21)
http://www.asahiseiki.co.jp/

 

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株)モノタロウ (耐震用品、各種素材、ねじ、工具等、幅広く入手可能。法人取引、公費購入に対応)
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滑り止めシート

https://www.sanwa.co.jp/product/syohin.asp?code=PDA-NS1