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分  野筋発生再生分野
掲載日1-Mar-2022
タイトル
不活動や糖尿病による筋萎縮のメカニズムを解明
~血管の意外な機能と創薬への期待~

Shin Fujimaki, Tomohiro Matsumoto, Masashi Muramatsu, Hiroshi Nagahisa, Naoki Horii, Daiki Seko, Shinya Masuda, Xuerui Wang, Yoko Asakura, Yukie Takahashi, Yuta Miyamoto, Shingo Usuki, Kei-ichiro Yasunaga, Yasutomi Kamei, Ryuichi Nishinakamura, Takashi Minami, Takaichi Fukuda, Atsushi Asakura, Yusuke Ono

The endothelial Dll4−muscular Notch2 axis regulates skeletal muscle mass.

Nature Metabolism.

DOI: 10.1038/s42255-022-00533-9.

 

熊本大学HP

JST 科学技術振興機構

 我が国をはじめ世界的に急速な高齢化が進行しており,それにともない増加するサルコペニアやフレイルが社会問題となっています。この問題を解決し健康長寿社会を実現するためには,筋萎縮を抑え生涯にわたって筋量を維持することが重要です。しかし筋萎縮を引き起こす上流のメカニズムについてはよくわかっていませんでした。

 

 今回,筋発生再生分野(小野悠介独立准教授)の藤巻慎助教らは,個々の筋線維をくまなく取り囲む毛細血管は酸素や栄養を運搬する役割に加え,筋萎縮を引き起こすカギを握っていることを発見しました。具体的な仕組みは,不活動(運動不足,活動量低下)あるいは糖尿病などの状態下では,毛細血管から可溶型Dll4が放出され,それが筋線維のNotch2受容体を活性化することで筋萎縮が誘導されるというものです。マウスを用いて「Dll4-Notch2軸」の働きを減弱させると,不活動や糖尿病による筋萎縮を抑制できることに加え,筋力トレーニングを模倣した過負荷モデルによる筋肥大を促進することがわかりました。「Dll4-Notch2軸」は筋萎縮を誘導するための重要な上流メカニズムとなり,加齢や慢性疾患にともなうサルコペニアやフレイルに対する有望な予防治療標的になると考えられます。

 

 本研究成果は,英国科学誌の「Nature Metabolism」に令和4年2月28日(英国現地時間午後4時)に掲載されました。

 

 なお本研究成果は,発生医学研究所・腎臓発生分野の西中村隆一教授およびリエゾンラボ研究推進施設の臼杵慎吾技術専門職員・安永桂一郎技術職員,本学の生命資源研究・支援センター分子血管制御分野の南敬教授・村松昌助教,生命科学研究部形態構築学分野の福田孝一教授・宮本雄太助教,国際先端医学研究機構の高橋雪枝技術補佐員,京都府立大学の亀井康富教授,ミネソタ大学の朝倉淳准教授グループとの共同研究によるものです。また本研究は,JST創発的研究支援事業,AMED再生医療実現拠点ネットワークプログラム,JSPS科学研究費助成事業,国際先端研究拠点,トランスオミクス事業,健康長寿代謝制御研究センター研究助成の支援を受けて実施されました。

 

概要図.筋萎縮の上流メカニズムとしてDll4Notch2軸を同定.

血管内皮細胞から放出される可溶型のDll4は筋線維の細胞膜に発現するNotch2受容体を活性化する「Dll4Notch2軸」は,筋萎縮を誘導し,筋肥大を抑制する。