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分  野形態制御分野
掲載日2-Mar-2022
タイトル
栄養が発生中の甲状腺の形態を制御することを発見

Maki Takagishi, Binta Maria Aleogho, Masako Okumura, Kaori Ushida, Yuichiro Yamada, Yusuke Seino, Sayoko Fujimura, Kaoru Nakashima, and Asako Shindo*

Nutritional control of thyroid morphogenesis through gastrointestinal hormones.

Current Biology

DOI: 10.1016/j.cub.2022.01.075.

 甲状腺は代謝や成長を調節するホルモンを分泌し、その内分泌機能は「濾胞」と呼ばれる球形の組織が基盤となっています。甲状腺疾患では濾胞の形態や大きさに異常が見られ、甲状腺濾胞の形態を制御する機構を解明することは医学的、生物学的にも重要な課題の1つとなっていました。

 

 今回、形態制御分野(進藤麻子独立准教授)では、両生類モデル動物であるアフリカツメガエル (Xenopus laevis) を用いて、発生中の甲状腺の形態形成が体外から取り入れる栄養によって制御されることを発見しました。胎盤を介して母体から栄養を得る哺乳類と異なり、アフリカツメガエルの幼生 (オタマジャクシ) は器官形成期から餌を食べることにより栄養を補給します。1つ1つの細胞が認識できる解像度で甲状腺組織を立体的に撮影し、その形態を解析したところ、餌由来の栄養が甲状腺濾胞の形成を開始するために必要であることがわかりました。未給餌の幼生は正常な遊泳行動を示し、長期間生存するものの、甲状腺の濾胞形成が進行しないこともわかりました(概略図・上)。

 

 さらに、摂食に依存して開始する甲状腺濾胞の形成には、摂食後に消化管から分泌されるインクレチンというホルモンが必要であることを発見しました。甲状腺細胞と濾胞内腔の位置関係を解析することにより、インクレチンは摂食開始後に見られる小濾胞同士の結合を促進する機能を持つことが見出されました (概略図・下)。また、インクレチンの1つであるGIP (Glucose-dependent insulinotropic polypeptide) の受容体のノックアウトマウスでは、生後直後の甲状腺濾胞が小さいこともわかり、インクレチンの甲状腺形態形成における機能が種を超えて保存されている可能性が示されました。

 

 本研究成果により、発生中の動物は、栄養状態に応じて器官の形態を柔軟に変化させるシステムを持つことが示されました。今後、器官形成期における栄養やホルモンの役割をさらに明らかにすることで、先天性の甲状腺低形成や、甲状腺濾胞形態の恒常性を維持する機構の解明に貢献することも期待できます。

 

 本研究成果は名古屋大学高等研究院の高岸麻紀博士(現テキサス大学)、名古屋大学医学教育研究支援センター・分析機器部門の牛田かおり技術職員 (現藤田医科大学)、関西電力病院の山田裕一郎博士、藤田医科大学の清野祐介准教授、発生医学研究所・リエゾンラボ研究推進施設の藤村幸代子技術支援員との共同研究によるものです。また本研究はAMED-PRIME (適応修復領域)の支援を受けて実施されました。

 

 本研究成果はCurrent Biology誌オンライン版に2022年2月22日に先行掲載されました。

 

 

概略図. 栄養が消化管ホルモンを介して甲状腺濾胞の形成を開始する。

 器官形成期に摂食するアフリカツメガエル幼生をモデルとして使用。 体外由来の栄養が消化管からインクレチンの分泌を促し、甲状腺濾胞の形成を開始・促進する。