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分  野分子細胞制御分野
掲載日2015年 4月 27日
タイトル
蛍光プローブチオフラビンTによる分子レベル・細胞レベルのRNA代謝の高感度モニター

Shinya Sugimoto, Ken-ichi Arita-Morioka, Yoshimitsu Mizunoe, Kunitoshi Yamanaka and Teru Ogura. Thioflavin T as a fluorescence probe for monitoring RNA metabolism at molecular and cellular levels. Nucleic Acids Research doi: 10.1093/nar/gkv338 First published online: April 16, 2015.

 ある特定の細胞における遺伝子発現の揺らぎが、形態形成・発生・分化・環境ストレス応答などのプロセスに大きく影響することなどが明らかとなり、分子や細胞の確率的変動(揺らぎ)の多彩な生命現象における重要性が、近年認識されるようになってきた。このような概念の誕生には、1分子・1細胞レベルでの解析技術の進展が大きく寄与している。しかし、そういう観点からの解析は、遺伝子組換えが容易に行えるモデル生物を用いた研究が主流で、幅広い生物種について研究するためには、汎用性の高い研究ツール・手法の開発が必要である。

 今回、分子細胞制御分野(小椋 光教授)の杉本真也博士(学振特別研究員;現 東京慈恵会医科大学講師)らは、アミロイド線維の検出試薬として汎用されているチオフラビンT(ThT)がRNAにも結合することを発見し、バクテリアのRNA代謝を1細胞レベルで可視化できることを報告した。アミロイド線維以外にも、核酸(グアニン四重鎖DNA:G-quadruplex DNA)にThTが結合することはすでに報告されていたが、DNA(大腸菌ゲノムDNA)とRNA(大腸菌トータルRNA)への結合能を調べた結果、DNAよりRNAに非常に強く結合することを見出した。特に、プリン塩基(アデニンとグアニン)を多く含むRNAに結合した。この性質を利用して、ポリA合成酵素やRNA分解酵素の活性をリアルタイムかつ定量的に測定することに成功した。さらに、大腸菌の細胞内RNAの量的変動をThTで可視化することができた。特に、休眠状態にあってRNA合成が低下している“persister”と呼ばれるごく少数の菌を識別するのに有効であった。薬剤感受性菌に由来するpersisterは、薬剤寛容性(トレランス)を示すため、persisterの識別は臨床的に重要である。ThTを用いた本手法は、大腸菌のみならず、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、バチルス属細菌、コレラ菌、緑膿菌など様々な細菌にも適用可能であった。

 以上より、ThTを用いることで、多様な生命現象に関わる遺伝子発現の揺らぎを1細胞レベルで観察でき、リアルタイムイメージングへ応用できる可能性を示した。

これらの成果は、2015年4月16日Nucl. Acids Res.誌電子版に先行掲載された。本研究の一部は、当研究所が推進する「発生医学の共同研究拠点」制度に基づく共同研究として行われた。

 

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