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分  野幹細胞誘導分野
掲載日2015年 4月 27日
タイトル
指定難病の1つライソゾーム病に含まれるニーマンピック病C型のiPS細胞を使った疾患モデルの確立と新規薬剤候補の発見

Soga, M., Ishitsuka, Y., Hamasaki, M., Yoneda, K., Furuya, H., Matsuo, M., Ihn, H., Fusaki, N., Nakamura, K., Nakagata, N., Endo, F., Irie, T., Era, T. HPGCD outperforms HPBCD as a potential treatment for Niemann-Pick disease type C during disease modeling with iPS cells. Stem Cells33(4):1075-1088 (2015)

 ニーマンピック病C型(NPC)は、遊離型コレステロールや糖脂質がライソゾーム(リソゾームともよばれる細胞小器官の1つ)内に蓄積し、肝・脾腫大(肝臓と脾臓が腫れて体積が増す状態)と神経症状を特徴とする国の指定難病の1つライソゾーム病疾患群の1つであり、まだ有効な治療薬が見つかっていない。NPC発症の分子機構の解明や治療法の開発にはヒトの疾患モデルが必要である。

今回、幹細胞誘導分野(江良択実教授)の曽我美南(博士課程大学院生;現 特定事業研究員)らは、NPC患者さん由来のiPS細胞から疾患モデルを確立することに成功し、薬剤スクリーニングにより新規薬剤候補2-hydroxypropyl-γ-cyclodextrin (HPGCD) を見出した。

NPC患者さんの皮膚線維芽細胞から、外来因子がiPS細胞に残らないことが特長のセンダイウイルスベクターを用いた方法で、iPS細胞を樹立し、疾患の標的細胞である肝様細胞や神経前駆細胞へ分化誘導したところ、顕著なコレステロール蓄積、ATP産生低下やオートファジー異常など、NPCに特徴的な細胞機能障害が認められた。これらの分化細胞を用いた薬剤スクリーニングにより、HPGCDが、これらの細胞機能障害を回復させることを見出した(図)。この効果は、NPC欠損細胞やNPCモデルマウにおいてコレステロール蓄積を減少させることが知られている2-hydroxypropyl-β-cyclodextrin(HPBCD)と同等であったが、急性毒性試験の結果、HPGCDはHPBCDと比べて毒性が低いことが明らかとなった。次に、NPC iPS細胞由来の肝様細胞では脂質代謝に関する遺伝子等の発現が有意に減少していていたが、これらの発現はHPGCD処理によって正常レベルに近づくことが確認できた。さらに、HPGCDをNPCモデルマウスに皮下投与したところ、血清トランスアミナーゼの低下、肝組織の修復、生存期間の延長などの治療効果が認められた。

以上の結果より、本研究で樹立したiPS細胞は、NPCの発症機構の解明と創薬研究のために疾患モデルとして有用であり、HPGCDがNPC治療薬候補であることが示された。本研究成果は、2015年4月Stem Cells 誌33巻4号に掲載された。

 

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図:肝様細胞でのコレステロール蓄積と細胞機能障害に対するHPGCDの効果

 

A)HPGCDとHPBCDはコレステロール蓄積を顕著に減少させたが、2-hydroxypropyl-α-cyclodextrin(HPACD)とNPC治療薬のMiglustatでは減少は見られなかった。左上:アルブミン(緑)とPI(ヨウ化プロピジウム)(赤)の蛍光染色 、左下:フィリピン染色(コレステロール検出)、右:フィリピンの蛍光強度を測定しグラフ化
B)HPGCDとHPBCDはATP産生低下とオートファジー異常を回復したが、Miglustatでは回復は見られなかった。左:ATP産生、右:オートファジー、N1-12:健常者由来肝様細胞、NPC6-1:NPC患者さん由来肝様細胞