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分  野幹細胞誘導分野
掲載日2015年 4月 9日
タイトル
短期間に高率にiPS細胞を樹立できる新型ベクターの開発とそれを用いたチンパンジー血液由来iPS細胞の作製

Yasumitsu Fujie , Noemi Fusaki , Tomohiko Katayama, Makoto Hamasaki, Yumi Soejima, Minami Soga, Hiroshi Ban, Mamoru Hasegawa, Satoshi Yamashita, Shigemi Kimura, Saori Suzuki, Tetsuro Matsuzawa, Hirofumi Akari, Takumi Era. New Type of Sendai Virus Vector Provides Transgene-Free iPS Cells Derived from Chimpanzee Blood. PLOS ONE, doi: 10.1371/journal.pone.0113052

 人工多能性幹細胞 (iPS細胞)は、再生医療分野において実用化が期待されていますが、従来のレトロウイルス等を使用したiPS細胞作製方法ではその作製効率は約0.2%と低いことに加えて、ウイルスが感染した細胞染色体へのウイルスゲノム導入による腫瘍化が懸念されています。そのため末梢血内の20~40%を占めるリンパ球から容易に作製でき、ウイルスが細胞質で増殖するため、染色体へのウイルスゲノムの導入がないセンダイウイルス(SeV)ベクターを用いたiPS細胞作製法が開発されました。しかし、これまでのSeVベクターでは細胞からウイルスを除去するために約4ヶ月の長期培養が必要である点などを改善する必要がありました。

 今回、幹細胞誘導分野(江良拓実教授)の藤江康光(博士課程大学院生;現 生命資源センター博士研究員)らは、短期間でのベクター除去率が向上し、iPS細胞作製効率がさらに向上する新型SeVベクター(TS12KOS)の開発に成功しました。このベクターは2つの大きな特長を持っています。1つはSeVウイルスの増殖維持に必要な遺伝子の1つに複数の温度感受性変異を導入し、ウイルス除去率を向上させたことです。もう1つは、同一ベクター上に山中因子のKLF4(K), OCT3/4(O), SOX2(S)を一列に配置することで、iPS細胞の作製率を向上させたことです (図)。次に、この新型SeVベクター(TS12KOS)の汎用性を検証するため、ヒトゲノムとの一致率が98.4%と非常に高く、ヒトと共通のウイルス(例えばエボラやB型肝炎ウイルスなど)に感染するチンパンジーの血液からiPS細胞株の樹立を試みました。その結果、従来型SeV ベクターと比較して4倍以上の高率でiPS細胞が作製でき、しかもSeVウイルス除去率が3倍以上向上していました (表)。DNAマイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現パターンの解析結果から、チンパンジーiPS細胞株はヒトiPS細胞と類似した遺伝子プロファイルを持つことも証明されました。

 本研究において、従来型SeVベクターと比較して、より短期間で高率にiPS細胞が樹立できる新型SeVベクター(TS12KOS)を開発した。これを用いて樹立したチンパンジー血液由来iPS細胞は、ヒトとチンパンジーに共通する病気の病態解明・創薬開発といったユニークな医療分野への応用も期待される。本研究成果は、2014年12月PLOS ONE誌に掲載された。

 

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