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分  野分子細胞制御分野
掲載日2015年 3月 19日
タイトル
分子シャペロンをターゲットにした新しいバイオフィルム阻害方法の開発

Ken-ichi Arita-Morioka, Kunitoshi Yamanaka, Yoshimitsu Mizunoe, Teru Ogura, and Shinya Sugimoto (2015) Novel strategy for biofilm inhibition by using small molecules targeting molecular chaperone DnaK. Antimicrob. Agents Chemother. 59: 633-641.

 バイオフィルムは微生物の集合体であり、細菌が固体表面に接着し、それらが産生する細胞外マトリクス(curliや多糖など)に覆われながら形成される。バイオフィルム中の細菌は、抗生物質や宿主免疫に耐性になるため、バイオフィルムの形成は慢性感染症の原因となりうる。このようなバイオフィルムを根絶させるためには、より効果的な抗生物質やバイオフィルムの形成メカニズムに基づいた阻害薬開発の戦略が必要になってきている。 

 今回、分子細胞制御分野(小椋 光教授)の有田健一(博士課程大学院生)らは,大腸菌を用いた遺伝学的な解析から分子シャペロンDnaKがバイオフィルム形成に必須であることを明らかにした(図右)。さらに、DnaKの活性を抑える低分子化合物を用いて、バイオフィルム形成を抑制できるか検証したところ、植物由来のフラボノイドであるMyricetinが、大腸菌の増殖を阻害せず濃度依存的にバイオフィルム形成を抑制できることを明らかにした(図右)。これは、dnaK 欠損株や野生株にMyricetinを添加した際に、バイオフィルムの形成に重要なcurliの産生が抑制されているためであることが示された(図左)。野生株にMyricetinを添加した際には、dnaK欠損株と同様の表現型が観察されたことから、MyricetinはDnaKの機能を阻害することでバイオフィルムの形成を抑制することが示唆された。また、グラム陰性菌には効かないとされていた抗生物質であるvancomycinが、Myricetinを同時に添加することで有効になることも明らかになった。さらにMyricetinは、Methicillin耐性株を含むグラム陽性菌の黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成も抑制した。この場合も、黄色ブドウ球菌の増殖に影響はなかった。

 以上の結果より、分子シャペロンDnaKはバイオフィルム形成に重要で、DnaKがグラム陰性菌のみならずグラム陽性菌の抗バイオフィルム薬の標的となりうることが示された。これらの研究成果は、2015年1月Antimicrob. Agents Chemother. 59巻1号に掲載された。本研究の一部は、当研究所が推進する「発生医学の共同研究拠点」制度に基づく東京慈恵会医科大学細菌学講座の杉本真也講師との共同研究として行われた。

 

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図 Curli産生とバイオフィルム形成におけるDnaKの重要性。

 

(左)dnaK 欠損や阻害剤MyrによるDnaK阻害は、curli(赤矢印)の産生を減少させる。スケールバーは500 nm。(右)Curliの産生が減少することで、バイオフィルムの形成量も低下する。