Mizuho Nakayama, Ken Matsumoto, Norifumi Tatsumi, Masaaki Yanai, and Yuji Yokouchi (2006) Id3 is important for proliferation and differentiation of the hepatoblasts during the chick liver development. Mech. Dev. 123, 580-590.
肝細胞と胆管上皮細胞に分化できる二分化能を持った肝芽細胞は肝臓発生初期に急速に増殖する。発生医学的な見地からこの増殖制御は重要な問題の一つであるが、その制御機構は十分に理解されているわけではない。今回、パターン形成分野(横内裕二教授)の中山瑞穂研究員らは、 helix-loop-helix (HLH) 型転写調節因子の一つである Id3 (inhibitor of differentiation 3) が肝発生初期の肝芽細胞の増殖において重要な役割を果たすことを明らかにした。まず始めに、 Id3 の発現パターンを解析したところ、 Id3 は発生初期の肝芽細胞で発現するが、発生後期の肝細胞では発現しないことを見出した。次に、 Id3 の機能解析を行うために Id3 に対する特異的な siRNA を予定肝内胚葉領域に導入すると肝芽細胞の増殖が強く抑制されたが、アポトーシスや分化マーカーの発現様式に変化はみられなかった。このことは、発生初期において Id3 が細胞死や分化制御には関わらず、肝芽細胞増殖の促進因子としてのみ機能していることを示している。一方発生後期では、 Id3 の発現パターンは肝細胞の分化マーカーであるアルブミンの発現パターンと相補的であり、さらに in vitro における Id3 の過剰発現は肝分化を遅延させた。この結果は Id3 が発生後期において肝細胞の分化を抑制していることを示唆している。これまでに Id ファミリータンパク質は、 bHLH 型転写制御因子と相互作用し、それらの転写活性を制御することが知られている。今後、 Id3 がどの転写因子群と直接結合しているのか、どのような標的遺伝子群の発現制御に関与するのかについての解明が待たれる。この研究成果は Mech. Dev. 誌7月号に発表された。
図: Id3 に対する siRNA 導入胚における肝臓の HE 染色像( A, B )と抗 PCNA 免疫染色による増殖細胞( C, D )を示す。( A,C )はコントロール siRNA を導入したもの、( B, D )は Id3 に対する特異的 siRNA を導入したものを示す。( A, B ) Id3 siRNA 導入胚では、肝細胞索( hepatic cellular cords )を形成する肝芽細胞の数が減少した( B, 矢尻)。( C, D ) Id3 siRNA 導入胚では、 肝類洞細胞( hepatic sinusoidal cells )の数は同じ( D, 矢印)だが、肝芽細胞の増殖が抑制された( D, 矢尻 )。 dv, ductus venosus (静脈管) ; si, sinusoids (類洞)。 Bar = 200 μ m 。