Masayo Sakaki-Yumoto, Chiyoko Kobayashi, Akira Sato, Sayoko Fujimura, Yuko Matsumoto, Minoru Takasato, Tatsuhiko Kodama, Hiroyuki Aburatani, Makoto Asashima, Nobuaki Yoshida, and Ryuichi Nishinakamura (2006) The murine homolog of SALL4 , a causative gene in Okihiro syndrome, is essential for embryonic stem cell proliferation, and cooperates with Sall1 in anorectal, heart, brain and kidney development. Development 133, 3005-3013
細胞識別分野(西中村教授)では、これまでに核内因子 Sall1が腎臓発生に必須であることを示してきたが、今回湯本、小林らはそのファミリーであるSall4のノックアウトマウスを作成した。Sall4を欠失する胚は子宮着床直後に死亡し、胎児のおおもとである内部細胞塊の増殖が障害されていた。この内部細胞塊由来の細胞株が、再生医療で注目されている胚性幹(ES)細胞である。そこでES細胞でSall4を欠失させたところ増殖が著明に低下し、Sall4 がES細胞に必須であるという予想外の事実が明らかになった。一方Sall4のヘテロマウスは肛門と心臓の異常を呈し、ヒトSall4の変異でおきるOkihiro症候群の症状の一部を再現できた。さらに、共に ヒト疾患の原因である Sall4とSall1 が二量体を形成して臓器形成に関わること、ヒト Sall1 の変異によって生じる症状の一部は、変異型 Sall1 が Sall4 の機能を阻害するためであることを明らかにした。 この研究成果は Development 誌 8 月号に発表され、巻頭でも“Cooperative SALLies form organs(Sallが協調して器官を作る、Cooperative SALLiesには共同戦隊の意味もひっかけてある)”として、紹介された。Sallファミリーが腎臓に限らず様々な臓器、さらにはES細胞にも必須であることが判明し、その分子機構解明がさらに重要性を帯びてきた。
図 : A. Sall4とSall1の発現は一部重なっている(矢尻は肛門)。
B. Sall4/Sall1の二重ヘテロマウス(右)は腎臓を欠損する。左は正常マウス。a, 副腎; b, 膀胱; c, 腸; k, 腎臓。