Kenji Osafune, Minoru Takasato, Andreas Kispert, Makoto Asashima, and Ryuichi Nishinakamura (2006) Identification of multipotent progenitors in the embryonic mouse kidney by a novel colony-forming assay. Development 133, 151-161
腎不全は難病指定とされ、社会的負担は大きいにもかかわらず、腎機能を回復させる画期的な治療法はいまだ存在しない。腎臓の再生研究に決定的に欠けているもの、それは腎臓前駆細胞を検定する系である。細胞識別分野(西中村教授)の長船ら(現在 Harvard 大学 Doug Melton 研ポスドク)は、発生期腎臓から前駆細胞を同定する系を確立した。細胞識別分野では、これまでに腎臓発生に必須の因子として核内因子 Sall1 を単離し、さらにこの遺伝子座に緑色蛍光タンパク質( GFP )を導入したマウスでは、腎臓前駆細胞集団である後腎間葉が蛍光発色することを示していた。今回、長船らは GFP が高発現する細胞をフローサイトメトリー( FACS )で選別し、シグナル因子 Wnt4 を発現するフィーダー上で培養すると、1個の細胞からコロニーが形成され、このコロニーは糸球体、近位尿細管、遠位尿細管という多系統へ分化することを見いだした。さらに GFP 高発現の細胞群を再凝集させ器官培養すると3次元構造を再構築できることを示した。これは腎臓前駆細胞を予見的( prospective )に同定する初めての系であり、組織や切片のレベルでしか検討されていなかった腎臓形成が、単一細胞レベルで解析できるようになる可能性を秘めている。またこのコロニーアッセイを指標として、胚性幹 (ES) 細胞から腎臓前駆細胞を誘導できるかもしれない。この研究成果は Development 誌 1 月号に発表され、巻頭でも紹介された。
図:腎臓前駆細胞の同定
(上)1個の後腎間葉細胞からコロニーが形成される。
(下) Sall1-GFP 陽性の細胞を再凝集させると3次元立体構造を再構築する。