Shiraki, N., Yoshida, T., Araki, K., Umezawa A., Higuchi, Y., Goto H., Kume, K., and Kume, S. Guided differentiation of ES cells into Pdx1-expressing regional specific definitive endoderm.Stem Cells Express, published online Feb 1, doi:10.1634/stemcells.2007-0608
ES 細胞は、個体を構成するすべての組織細胞に分化する能力をもった細胞であり、発生分化メカニズムを研究するツールとして有用であり、再生医療における細胞移植の細胞源としても注目されている。幹細胞制御分野(粂昭苑教授)の白木伸明(発生研機関研究員)らは、 ES 細胞から膵前駆細胞( Pdx1 陽性細胞)を効率よく分化誘導できる方法を開発した。 ES 細胞から膵β細胞を誘導する技術については、多くの報告がなされているが、膵β細胞に至るまでの分化制御機構について分子レベルでの解析は少ない。膵臓は内胚葉由来の臓器であり、膵β細胞(インスリン陽性細胞)は膵前駆細胞( Pdx1 陽性細胞)・内分泌前駆細胞( Ngn3 陽性細胞)を介して発生する。今回、白木らは様々な細胞株をスクリーニングして、中腎由来の M15 細胞が ES 細胞から膵前駆細胞を効率よく分化誘導することを見いだした。さらに、スクリーニングに使用した細胞株についてマイクロアレイ解析を行い、 M15 細胞のもつ分化促進能力の本体について解析を行った。解析の結果、膵臓分化に関して、アクチビン・ FGF ・レチノイン酸・接着因子の関与が示唆された。そこで、 M15 細胞とこれらの液性因子の添加を組み合わせることで ES 細胞から非常に効率よく膵前駆細胞を分化誘導できる方法を確立できた。定量的な解析の結果、支持細胞のみの場合に得られる膵前駆細胞は約 2% 程度であったが、液性因子を添加することで約 30% と飛躍的に増加した(図 1 )。得られた膵前駆細胞については、マウスへの移植実験を行い、膵臓を構成するすべての細胞へ分化可能であることがわかった。また、この系を用いることで ES 細胞から中内胚葉・内胚葉を介した膵前駆細胞への分化誘導に関与する様々な因子についても検討を加えることができた ( 図2 ) 。今回、開発した方法やそこから得られる膵前駆細胞を利用することで、膵臓分化機序のさらなる解明やインスリン産生を行う膵β細胞の再生医療への応用が期待される。この研究成果は Stem Cells 電子版に先行掲載された。
図1 M15 細胞と液性因子の添加を組み合わせることで効率的な膵前駆細胞の分化誘導に成功。写真は分化誘導8日目の Pdx1 /GFP ES 細胞の様子。図中の数字は膵前駆細胞( Pdx1 陽性細胞)の割合を示している。
図2 ES 細胞から膵前駆細胞への分化誘導に関与する因子。 Act, アクチビン ; Ect, 外胚葉 ; End, 内胚葉 ; ICM, 内部細胞塊 ; ME, 中内胚葉 ; Mes, 中胚葉 ; Epi, エピブラスト ; p38,p38 MAP キナーゼ , RA, レチノイン酸