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分  野分子細胞制御分野
掲載日2008年 3月 24日
タイトル
線虫 CDC-48.1 の胚時期での発現に関与する因子 HMG-12 および CAR-1 の同定

Seiji Yamauchi, Nahoko Higashitani, Mieko Otani, Atsushi Higashitani, Teru Ogura, Kunitoshi Yamanaka. Involvement of HMG-12 and CAR-1 in the cdc-48.1 expression of Caenorhabditis elegans . Dev. Biol., published on line: 13 March 2008, doi: 10.1016/j.ydbio.2008.02.057

 AAA 型 ATPase である p97 ( VCP または Cdc48p )は酵母からヒトに至るまで高度に保存されたタンパク質である。これまでの様々な生化学的解析により、 p97 が小胞体関連分解( ERAD )、膜融合、アポトーシスおよび転写調節など多くの機能に関与していることが明らかにされてきた。その一方で、 p97 の遺伝子発現制御機構はほとんど知られていなかった。 p97 は 骨パジェット病と前頭側頭葉型認知症を伴う家族性封入体筋炎の原因因子として同定されているほか、 p97 の発現量が種々のガンの予後と関連するという報告もあり、 p97 遺伝子の発現調節は医学的観点からも非常に興味深い。

細胞複製分野(小椋 光教授)ではこれまでに、線虫が他の生物とは異なり 2 種類の p97 ( CDC-48.1 および CDC-48.2 )を持ち成育に必須であること、またその 2 つの遺伝子の発現部位には大きな違いがあることを報告している [Yamanaka et al . (2004) J. Struct. Biol. 146, 242-250; Yamauchi et al . (2006) Biochem. Biophys. Res. Commun. 345, 746-753] 。今回、同分野の山内清司研究員(現:愛媛大・研究員)らは、 2 種類の p97 の発現部位の違いは各々のプロモーターに依存していることを明らかにするとともに、 CDC-48.1 が胚時期で発現するために必須な 2 種類の転写因子を同定した。

各々のプロモーターの詳細な解析から、 CDC-48.1 のプロモーターには、胚発現に必要な 2 カ所の領域( A および B )と幼虫期以降の発現に必要な 3 カ所の領域( a, b および c )が存在した。一方、 CDC-48.2 のプロモーターには胚発現に必要な領域が 1 カ所のみ存在しており、両者のプロモーター構造には大きな違いがあることがわかった(図 1 )。胚抽出液を 2 次元電気泳動で展開し、領域 A および B をプローブとして用いたサウスウエスタン法により、 CDC-48.1 の胚発現に必要な領域 A および B に結合するタンパク質として、それぞれ HMG-12 と CAR-1 を同定した(図 1 )。 hmg-12 および car-1 を RNAi によりノックダウンした個体では、胚において p97 の量の顕著な減少が見られた(図 2 )ことから、 CDC-48.1 の胚発現に HMG-12 および CAR-1 が重要な働きをしていると結論した。

 

本研究により、 CDC-48.1 の発現は、線虫の成育段階の違いにより制御されていることが明らかにされ、線虫でこれまでに多く報告されている部位特異的な制御と異なる点で非常に興味深い。また今後、同定した転写因子の欠損株の表現型を解析し、各 p97 と共発現する遺伝子を特定することにより、各 p97 に関する知見がさらに得られると期待される。この研究成果は Developmental Biology 電子版に先行掲載された。

 

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図1  2 種類の p97 のプロモーター構造 

cdc-48.1 のプロモーターには胚発現に必要な 2 カ所の領域( A および B )と幼虫期以降の発現に必要な 3 カ所の領域( a, b および c )が存在し、 cdc-48.2 は胚発現に必要な領域 1 カ所のみが存在した。また cdc-48.1 の胚発現に必要な領域 A および B に結合するタンパク質として、 HMG-12 および CAR-1 を同定した。

 

図2  hmg-12 および car-1 RNAi による p97 の量への影響 

hmg-12 および car-1 RNAi 株を用いて、胚における p97 の量への影響を GFP コンストラクト(左)およびウェスタンブロット(右)により解析した。双方のノックダウン株ともに p97 の量が減少しており、特に car-1 RNAi 株において顕著な減少が見られた。