ニュープレス

⇒NewPress一覧へ

分  野細胞複製分野(現・分子細胞制御分野)
掲載日2007 年 6月 5日
タイトル
線虫の p97/CDC-48 は減数第一分裂の進行に必須である

Yohei Sasagawa, Kunitoshi Yamanaka, Shingo Nishikori, and Teru Ogura (2007) Caenorhabditis elegans p97/CDC-48 is crucial for progression of meiosis I. Biochem. Biophys. Res. Commun. 358, 920-924.

  酵母からヒト に至る まで高度に保存された AAA 型 ATPase である p97 ( VCP または Cdc48p とも呼ばれる ) は、 小胞体関連分解( ERAD ) や 小胞体膜 ・ゴルジ 体 膜 の 再構築、体細胞分裂 G/S 期 および M 期 の 進行 に 必須の重要因子である。一方で、 p97 の発生や組織形成における機能は、ほとんど明らかにされていない。これまでに細胞複製分野の山中邦俊准教授らは線虫 C. elegans に存在する2種類の p97 は重複して胚発生に必須であることを報告した( Yamanaka et al. (2004) J. Struct. Biol. 146, 242-250 )が、その詳細は未解明であった。

 今回、同分野の笹川洋平研究員らは、 p97 の胚発生における機能を詳しく調べ、 p97 が減数第一分裂の進行に必須であることを見いだした。 2 種類の p97 を RNAi により、ノックダウンすると初期胚に異常な多核をもつ細胞が高頻度に観察された。初期胚における異常な多核の形成は、減数分裂の進行に関与する遺伝子の変異体でも頻繁に観察されることから、 p97 は減数分裂に関与することが考えられた。そこで、蛍光タンパク質 mCherry 融合ヒストン( Histone H2B::mCherry )と GFP 融合チューブリン(α -tubulin::GFP )を同時に発現する OD57 系統を使用し、 p97 ノックダウン個体の減数分裂過程における染色体と チューブリン のダイナミクスを経時観察した。 p97 ノックダウン個体では、減数分裂紡錘体が形成するにもかかわらず、減数第一分裂中期における染色体の分離分配が起きなかった(図 A 参照)。さらに詳しく調べると、 p97 ノックダウン個体では減数第一分裂前期ディアキネシス期において、既に染色体の凝縮異常が起きていた(図 B 参照)。減数第一分裂前期における染色体凝縮異常は、それに続く減数第一分裂中期の異常を引き起こすことが報告されている。これらの結果から、 p97 は減数第一分裂前期における染色体の凝縮に関与し、減数第一分裂の進行を制御していることが示唆され、 p97 の新たな細胞周期調節機能が明らかになった。 この研究成果は Biochem. Biophys. Res. Commun. 誌 7 月 6 日号に発表された。

 

np20enp7

 

A  p97 は減数第一分裂中期の進行に必須である。
OD57 系統で、 2 種類の p97 を RNAi し、減数分裂過程を観察した。 mCherry::Histone H2B ( 左列 ), GFP::α-tubulin ( 中央列 ) 、 merge 画像 ( 右列 ) 。 

 

B  p97 ノックダウンによる減数第一分裂前期における染色体凝縮への影響。
2 種類の p97 を RNAi によりノックダウンし、減数第一分裂前期ディアキネス期の染色体を観察した。星印は二価染色体を示す。 p97 ノックダウンにより、二価染色体の凝縮不全ならびに異常な染色体間の bridge が観察された。