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分  野細胞複製分野(現・分子細胞制御分野)
掲載日2007 年 5月 23日
タイトル
線虫に存在する 6 種類の UBX タンパク質は異なる発現パターンを示す

Seiji Yamauchi, Yohei Sasagawa, Teru Ogura, and Kunitoshi Yamanaka (2007) Differential expression pattern of UBX family genes in Caenorhabditis elegans . Biochem. Biophys. Res. Commun. 358, 545-552.

  代表的な AAA タンパク質の 1 つである p97 (または VCP 、酵母では Cdc48p )は、タンパク質分解(小胞体関連分解など)、膜融合、アポトーシスおよび転写調節など実に多くの細胞機能に関与している。この p97 の多機能性は、 p97 に結合するアダプタータンパク質の種類によって規定されていると現在考えられている。アダプタータンパク質の一種である UBX ファミリータンパク質は、 UBX ドメインを介して p97 と結合する。真核生物は数種類(酵母 7 種類およびヒト 8 種類)の UBX タンパク質を保持しているが、機能が明らかとなっているのは、膜融合に関わる p47 、 p37 (哺乳類)、小胞体関連分解に関わる UBX2 (酵母)および UBXD2 (ヒト)とごくわずかにすぎない。

 線虫は 6 種類の UBX タンパク質と 2 種類の p97 を持っている。細胞複製分野(小椋 光教授)の山内清司研究員(現:愛媛大・研究員)らは 6 種類の UBX タンパク質の発現パターンを詳細に解析して、各 UBX タンパク質がそれぞれ独自の発現パターンを示すことを明らかにした。おもな知見は以下の 3 つである。( 1 )緑色蛍光タンパク質( GFP )との融合タンパク質を用いた解析により、 6 種類の UBX タンパク質の発現部位は大きく異なっていた。( 2 ) UBXN-4 は小胞体ストレス下で発現が誘導され(図 1 )、小胞体関連分解に関わると考えられる。( 3 ) UBXN-5 は精子形成期の生殖腺で特異的に発現していた(図 2 )。すでに、 p97 は精子形成から卵母細胞形成へのスイッチングに関わることが同研究室で見いだされており、 UBXN-5 がこの機能を担うアダプター分子である可能性が示唆された。これまでに UBX タンパク質の発現パターンを包括的に解析した例はなく、本研究により明らかとなった線虫の 6 種類の UBX タンパク質の発現パターンの違いは各 UBX タンパク質および p97 の機能を知る上で大きな手がかりになることが期待される。これらの発現パターンを基に各 UBX タンパク質の今後の詳細な解析が待たれる。この研究成果は Biochem. Biophys. Res. Commun. 誌 6 月 29 日号に発表された。

 

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図 1: ubxn-4 は小胞体ストレス下で発現が誘導される。
DTT は小胞体ストレス誘導試薬である。 ubxn-4 の mRNA 量は DTT 処理をした場合、処理なしのときと比べて約 3 倍に増加した。

 

 

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図 2: ubxn-5 は精子形成期の生殖腺で特異的に発現する。
右に示した線虫の変異株を用いて、 ubxn-5 の mRNA 量を測定した。 ubxn-5 は精子のみを形成する fem-3 (gf ) 株において顕著な発現が見られた。