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分  野細胞複製分野(現・分子細胞制御分野)
掲載日2007 年 6月 7日
タイトル
遺伝性痙性対麻痺の原因因子 spastin の線虫ホモログは微小管を脱会合する

Yuka Matsushita-Ishiodori, Kunitoshi Yamanaka, and Teru Ogura (2007) The C. eleganshomologue of the spastic paraplegia protein, spastin, disassembles microtubules. Biochem. Biophys. Res. Commun. 359, 157-162.

  AAA タンパク質の一つである spastin は,重篤な神経変性疾患である遺伝性痙性対麻痺の原因因子として同定された。培養細胞およびショウジョウバエを用いた実験により, spastin が微小管切断活性を示すことが報告されている。しかしながら, spastin 変異が遺伝性痙性対麻痺を発症するメカニズムや spastin が微小管をどのように切断するかは明らかになっていない。 細胞複製分野(小椋 光教授)の石躍(松下)由佳(博士課程大学院生)らは,線虫の spastin ホモログ SPAS-1 の詳細な解析を行った。まず, SPAS-1 は初期胚において核周辺で細胞骨格に局在し, SPAS-1 欠失変異体では中心体近傍領域で微小管が強く染色されることを明らかにした。さらに,培養細胞において野生型 SPAS-1 を強制発現させると,微小管の消失が見られるが, ATP 結合能を欠損する変異体 K224R や加水分解能を欠損する変異体 E278Q 、およびリング状オリゴマーの孔の入り口に位置し,基質タンパク質の結合に関わる芳香族アミノ酸の変異体 W251A を発現させた細胞では,微小管の消失は認められなかった(図)。これらの結果から, SPAS-1 が微小管ダイナミクスに重要な役割を担っていることが示された。以上の結果は,遺伝性痙性対麻痺の疾患モデルとしての線虫の可能性を示唆しており,今後詳細な解析により微小管ダイナミクスと疾患との関連が明らかになることが期待される。これらの研究成果は、 Biochem. Biophys. Res. Commun. 誌 7 月 20 日号に発表された。

 

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図:SPAS-1 は微小管の脱会合に働く。
HEK293 細胞において FLAG タグを融合した野生型および各種変異体 SPAS-1 を強制発現させた結果を示す。赤 , FLAG-SPAS-1; 緑 , α-tubulin; 青 , 染色体。
野生型 SPAS-1 を導入した細胞では,微小管の消失が見られた (上段)。一方,各種変異体( K224R , E278Q および W251A )を導入した細胞では,微小管の消失は認められなかった。