分野紹介
損傷修復分野
研究プロジェクト

 

(1) DNAが損傷しやすい環境でもDNA複製を継続して、細胞増殖を維持する役割をもつ、損傷トレランス

 

(2) 損傷トレランスは、正常細胞の増殖を維持する一方で、癌化した細胞の増殖も助けてしまう面をもつ。損傷トレランスのメカニズムを解明して、癌の治療に役立てる研究。

 

(3) 損傷トレランスは正常細胞の増殖を維持する役割をもつ。損傷トレランスでは、E3酵素RAD18が鍵となる役割を果たす。RAD18をなくした動物は、精巣などで早期の老化が見られる(Sun et al., 2009)。早期に老化するメカニズムを解明する。

 

(4) RAD18はヒストンタンパクを修飾して、損傷トレランスを制御する可能性がある。このメカニズムを解明する。

 

(5) 早期に老化がおこる遺伝病であるコケイン症候群の治療のための研究。

 

 

 

細胞が増殖するには、DNAの複製が必要です。活性酸素などにより、DNAが損傷されるとDNAを複製する酵素が止まってしまいます。この状態が続くと細胞が増殖できないため、幹細胞が増殖できなくなることが考えられます。幹細胞を維持できなくなると、新陳代謝が止まり、早期に老化が進むと予想されます。損傷トレランスは、DNAが損傷しても複製を可能にします。これにより幹細胞の増殖と新陳代謝を維持すると考えています。

 

 

  損傷トレランスが、機能せずにDNA複製が停止する場合 損傷トレランスが働いて、DNA複製が維持される場合
正常なヒト細胞 幹細胞の供給の停止により新陳代謝が阻害される各臓器の機能の低下(早期老化) 幹細胞の供給による新陳代 各臓器の機能の維持
癌化した細胞 癌細胞が増殖しにくくなる   抗癌剤に反応して癌細胞が死滅しやすくなる DNA複製を阻害するタイプの抗癌剤に対する耐性を獲得する


図2 損傷トレランスが、正常細胞または癌細胞に及ぼす影響のモデル

 

損傷トレランスは、DNAが損傷しやすい環境でもDNA複製と細胞増殖を維持する役割をもつ。正常細胞の増殖を維持する一方で、癌化した細胞の増殖も助けてしまう面をもつ。 損傷トレランスが正常細胞または癌細胞の増殖に及ぼす影響について図2にまとめました。

私達が研究しているRAD18は、損傷トレランスの鍵となる因子です。細胞を長期にわたり正常に維持するために必要であるのですが、その一方で、癌化した細胞ではRAD18タンパクが増えてしまうことで、癌細胞の増殖を助けてしまうと考えられています。

重篤な皮膚癌であるメラノーマの患者は、RAD18タンパクの発現量が高いとメラノーマの予後が悪くなる相関関係が報告されています。(Wong et al., 2012)。この他に、乳癌、直腸癌、結腸直腸癌、胃癌など、RAD18の発現量が多いと癌患者の予後が悪くなる相関関係が報告されており、全世界で着目されています(PMID:31001629, 31033216, 32319669, 32385769)。またRAD18の発現量が高くなると、癌細胞が抗癌剤に対して耐性になることが報告されています。私達は、RAD18が損傷トレランスを制御する仕組みを明らかにすることで、新たな癌治療の開発に貢献したいとおもっています。