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分  野細胞複製分野(現・分子細胞制御分野)
掲載日2006 年 11月 8日
タイトル
線虫の fidgetin ホモログ FIGL-1 の解析から AAA ATPase のサブユニット間 ATP 加水分解機構が証明された

Yasufumi Yakushiji, Shingo Nishikori, Kunitoshi Yamanaka, and Teru Ogura (2006) Mutational analysis of the functional motifs in the ATPase domain of Caenorhabditis elegans fidgetin homologue FIGL-1: Firm evidence for an intersubunit catalysis mechanism of ATP hydrolysis by AAA ATPases. J. Struct. Biol. 156, 93-100.

 AAA ATPase は、一般にリング状の 6 量体を形成して機能する。 ATP はサブユニットの境界領域に結合し、その加水分解には 3 つの機能的モチーフ( Walker A, Walker B および SRH )が関与することが提唱されている。細胞複製分野(小椋 光教授)の薬師寺 恭文(元博士課程大学院生)・錦織 伸吾(学振特別研究員)らは、線虫 FIGL-1 タンパク質の ATP 加水分解機構の詳細な解析を行った。まず野生型 FIGL-1 タンパク質と、 Walker A 変異体( K362A )、 Walker B 変異体( E416A )、および SRH 変異体( N461A と R471A )を調製した。予想されたように、いずれの変異体でも ATPase 活性は検出されなかった。ところが 2 種類の変異体を混合すると、組み合わせによっては ATPase 活性が検出された。例えば E416A と N461A の組み合わせ(図 A )では ATPase 活性は検出されなかったが、 E416A と R471A の組み合わせ(図 B )では活性が検出された。活性が検出された組み合わせでは、いずれかのサブユニット間に 3 つのモチーフのすべてが揃う。この結果は、提唱されていたサブユニット間触媒機構を強く支持している。おもしろいことに、 K362A と R471A の組み合わせ(図 C )では、あるサブユニット間に 3 つのモチーフが揃うにもかかわらず、 ATPase 活性が検出されない。この結果から、 3 つのモチーフが揃うことに加え、隣りの ATP 結合部位への ATP 結合によるサブユニットの構造変換が必要であるという、あらたなサブユニット間協調機構を提唱した。これらの研究成果は、 J. Struct. Biol. 誌 10 月号に発表された。

 

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図 2 種類の変異体混合による ATPase 活性回復の説明図

 

ATP を赤丸で示す。○は ATP 加水分解できたこと、×はできなかったことを示す。 (A) E416A (黄色)と N461A (緑色)の組み合わせでは、どのサブユニット間にも 3 つのモチーフが揃わず ATP 加水分解は起こらない。 (B) E416A (黄色)と R471A (桃色)の組み合わせでは、あるサブユニット間に 3 つのモチーフが揃うことにより、 ATPase 活性があらわれる。 (C) K362A (青色)と R471A (桃色)の組み合わせでは、あるサブユニット間に 3 つのモチーフが揃うにもかかわらず、隣りの位置に ATP が結合していないため R471 が機能的でなく、 ATP 加水分解が起こらない。