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分  野器官制御分野(現・細胞医学分野)
掲載日2006 年12月13日
タイトル
CTCF依存性インスレーター活性にクロマチンリモデリング因子が関与する

Ko Ishihara , Mitsuo Oshimura , and Mitsuyoshi Nakao (2006) CTCF-dependent chromatin insulator is linked to epigenetic remodeling . Mol. Cell 23, 733-742.

 高等生物のゲノムは、様々なレベルの発現制御を受けている。個々の遺伝子ごとの転写調節に加えて、核内配置による制御や染色体全体に及ぶグローバルな制御も受ける。さらに、各々の間期染色体は数 10~数100 kbのローカルな機能ドメインを形成し、ドメイン内の遺伝子は、エンハンサーやサイレンサー、LCRなどによる高次の遺伝子発現制御を共通に受ける。エンハンサーの作用はドメインを越える範囲にまで及ぶポテンシャルがあるが、実際にはドメイン間に存在するインスレーター配列の機能により、ドメイン内に限定されている。哺乳類ではCTCF (CCCTC-binding factor)と呼ばれる転写因子がインスレーター配列に結合することが、インスレーター活性に必要であることが知られている。しかし、CTCFがどのように染色体ドメインの形成に働くのか、その結果形成されるクロマチン構造がどのような構造か、その詳細は不明である。   今回、器官制御分野(中尾光善教授)の石原宏研究員らはインスレーター活性における CTCFの役割を明らかにすることを目的に、CTCF結合因子を探索し、新しいCHD (chromodomain helicase)ファミリータンパク質CHD8を同定した。CHD8は細胞核内でCTCFと複合体を形成し、クロマチン上のCTCF結合部位に存在することが示された。さらに、RNAiによるCHD8のノックダウンにより、CTCF依存性インスレーターの活性が阻害された(図)。また、CHD8のノックダウンにより BRCA1 と c-myc 遺伝子座のCTCF結合部位近傍のDNAメチル化の増加とヒストンのアセチル化の減少が見られた(図)。これらの結果は、 CTCF-CHD8複合体がインスレーター 部位のエピジェネティックなクロマチン修飾に関与し、CTCF依存性インスレーターはクロマチンリモデリングと密接に関連することを示唆する。この研究成果は、Mol. Cell 誌9月1日号に掲載された。

 

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図 CTCF-CHD8複合体とインスレーターによるクロマチン制御

CTCF-CHD8複合体はDMR (differentially methylated region)インスレーターに結合し、 H19 下流のエンハンサーが IGF2 に働くのを遮断するが、CHD8のノックダウンでエンハンサー遮断活性を失い、 IGF2 の活性化が見られた。 c-myc や BRCA1 ではヘテロクロマチンとの境界にCTCF-CHD8が結合しており、CHD8のノックダウンによりDNAメチル化の増加やヒストンの脱アセチル化が見られた。