Ogino Y, Katoh H, Kuraku S, Yamada G. (2009) Evolutionary history and functional characterization of androgen receptor genes in jawed vertebrates. Endocrinology 150(12):5415-5427.
雄性ホルモン( アンドロゲン )は内外生殖器や性淘汰に関わる二次性徴の発生分化を制御することで、繁殖に必須である多様な雄性形質を規定している。アンドロゲンシグナリングの主要な担い手である アンドロゲン受容体 ( AR )遺伝子は四肢動物では 1 分子種、真骨魚類では2分子種( ARα 、 ARβ )の存在が知られている。しかし、脊椎動物の進化過程で、いつ機能的な AR 遺伝子が出現したのか、真骨魚類の2分子種 AR 遺伝子を生むに至った遺伝子重複がいつ生じたのか、重複後機能的な相違を生む分子進化が生じたのか、その進化過程はまだほとんど理解されていなかった。今回、生殖発生分野(山田 源教授)の荻野由紀子博士( COE リサーチアソシエイト)らは、軟骨魚類 ( イヌザメ ) 、祖先型条鰭類 ( ポリプテルス、チョウザメ ) 、祖先型真骨魚類 ( アロワナ ) 、真骨魚類(カダヤシ、メダカ)から、 AR 遺伝子を単離し、脊椎動物における AR 遺伝子の分子進化および機能多様化の過程を解析した。まず、分子進化解析から、真骨魚類2分子種 AR 遺伝子 (ARα 、 ARβ) は、条鰭類の系統で、チョウザメが分岐した後、アロワナが分岐する前、すなわち真骨魚類の系統で特異的に起きたゲノム倍数化と一致するタイミングで、重複したことが明らかとなった。真骨魚類であるメダカの ARα および ARβ 遺伝子 は、それぞれ 10 番および 14 番染色体に位置しており、ヒト AR 遺伝子が位置する X 染色体とのゲノム構造上の類似性を比較した結果、メダカ AR 遺伝子は、染色体の倍数化に伴い 2 分子種に重複したことが判明した。続いて、 in vitro における AR 遺伝子の機能解析から、軟骨魚類であるサメの AR が古典的なアンドロゲンをリガンドとして機能することが明らかとなり、有顎類の系統でサメが分岐する段階で、最も祖先型の機能的 AR 遺伝子が出現したことが明らかとなった。一方、真骨魚類 ARα 遺伝子は進化速度が速く、細胞内局在、転写活性化能において、 ARβ および他生物種 AR 遺伝子とは異なる性質を有しており、真骨魚類で特化した AR 遺伝子であることが判明した。よって、真骨魚類 AR 遺伝子は、重複後機能的な多様化を遂げたことが示唆された。以上の研究は、アンドロゲン応答能獲得の進化学的理解、多様な二次性徴を呈する真骨魚類の形態形成を理解する上で必須の分子情報を提供する。本研究は、 Endocrinology 誌 12 月号に掲載された。