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分  野分子細胞制御分野 (旧 細胞複製分野)
掲載日2009年 9月 30日
タイトル
線虫 p97 は CUL-2 依存的な TRA-1 の分解を促進することで性決定を制御する

Yohei Sasagawa*, Mieko Otani, Nahoko Higashitani, Atsushi Higashitani, Ken Sato, Teru Ogura, and Kunitoshi Yamanaka*. (2009) Caenorhabditis elegans p97 controls germline specific sex determination by controlling TRA-1 level in a CUL-2 dependent manner. J. Cell Sci. 122: 3663-3672. (*equal contribution)

 線虫 Caenorhabditis elegans には 2 つの “ 性 ” 、つまり自家受精により増殖する雌雄同体と精子のみを作る雄が存在する。どちらの性になるかは、性決定機構が制御している。また雌雄同体の生殖線では、精子が形成された後、卵母細胞が形成され、自家受精が起きるが、この精子形成から卵母細胞形成への転換も、性決定機構により制御されている。これまでの研究から、雄性化および精子形成は、性決定機構において決定的な役割を果たすマスターレギュレーター TRA-1A により抑制されることが知られている。近年、 CUL-2 ユビキチンリガーゼによる TRA-1A の分解制御が、雄性化および精子形成の促進に重要であることが報告され、線虫の性決定機構におけるユビキチン – プロテアソーム系の重要性が示されている。

  p97/CDC-48 ( VCP または Cdc48p とも呼ばれる)は、酵母からヒトに至るまで高度に保存された AAA 型 ATPase で、ユビキチン – プロテアソーム系を制御することが知られている。今回、分子細胞制御分野(小椋 光教授)の笹川洋平研究員(現所属:理研 CDB 発生ゲノミクス研究チーム)らは、線虫の TRA-1A の分解が p97/CDC-48 により制御されることを見いだした。線虫 p97/CDC-48 の欠失変異体では、精子形成過程が短時間で終了し(図 1 )、精子の数が野生型と比べて半減していた。さらに遺伝学的解析から、 CDC-48 の標的候補として TRA-1A を同定し、実際 TRA-1A が CDC-48 欠失変異体で蓄積していることを明らかにした。さらに CDC-48 のコファクター NPL-4 と CUL-2 ユビキチンリガーゼのアダプター ELC-1 が直接結合することを見いだした。これらの結果から、 NPL-4 と ELC-1 の結合に依存して、 CDC-48 が CUL-2 にリクルートされることが示唆された。これにより CDC-48 は、ポリユビキチン化 TRA-1A のプロテアソームへの受け渡し を促進する、すなわち TRA-1A の量的制御を行う ことで、性決定機構を制御しているというモデルを提唱した (図 2 )。 これらの研究成果は、 Journal of Cell Science 誌電子版に先行発表された。

 

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図1 cdc-48.1(tm544)では精子形成から卵母細胞の切り替えが早く起こる

 

L4幼虫から生殖腺を切り出し、DAPI(青:DNAマーカー)、抗MSP抗体(緑:精子形成マーカー)、抗RME-2抗体(赤:卵母細胞形成マーカー)で染色した。L4幼虫になった直後(0 時間)では、RME-2シグナルは野生型、cdc-48.1(tm544)変異体ともに観察されなかった。一方、L4幼虫になってから7時間後では、野生型では6.3%しかRME-2シグナルが観察されなかったのに対してcdc-48.1(tm544)変異体では75.6%にRME-2シグナルが観察された。cdc-48.1(tm544)変異体では、より早く卵母細胞形成が開始されていることがわかる。

 

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図 2  性決定機構における p97/CDC-48 の役割のモデル

 

( A ) CDC-48UFD-1-NPL-4 と CUL-2FEM-1/-2/-3ユビキチンリガーゼは TRA-1A を抑制する。赤色のタンパク質は、卵母細胞形成を促進し、逆に青色のタンパク質は、精子形成を促進する。

( B ) 我々の提案する仮説モデル。 CDC-48UFD-1-NPL-4は、 CUL-2 ユビキチンリガーゼにアクセスし、ポリユビキチン化基質を CUL-2 ユビキチンリガーゼから脱会合させる。脱会合には、 p97/CDC-48 が ATP を加水分解する際発生する物理的力が使われる。