分野紹介
脳発生分野

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研究プロジェクト

一枚の神経上皮細胞のシートから脳を作り上げる「脳の構築術」の神秘に迫る! 

  胚の発生のごく早い段階で将来脳になる細胞の集団が現れます。それは、中枢神経系の幹細胞である神経上皮細胞で構成される神経板であり、そこには将来の脳の地図が描かれています。大脳、間脳、中脳、小脳といった脳の各領域をどの場所につくるのか、その地図に従って細胞の振る舞いは決まり、脳がつくられていきます。それぞれの領域は、構成するニューロンの種類や数、そしてそれら細胞のパッケージのしかた(組織構築)が異なり、様々な高次機能を発揮する脳へと発生します。

 

我々は、この神秘的な「脳の構築術」を明らかにすることを目的として、以下の課題に取り組んでいます。正常発生を理解することは、先天性異常の理解や、再生医療への応用に結びつきます。また、種によって大きく異なる脳がどのようにつくられるのかといった動物の進化的観点にたった研究も進めており、ヒトが高度な知能を獲得した仕組みの解明にもつながることを期待します。

 

1. 脳のパターン形成のしくみ
  A) パターン形成のしくみと神経上皮区画の予定運命地図
  B) 新たなシグナリングセンターの解析
2. 神経幹細胞の増殖と分化
  -脳を作る細胞の数の調節-
3. 層構造と神経核構造
  -組織構造の違いはどうやって作り出す?-
4. 大脳皮質に細胞構築の異なる領野が作られるしくみ
5. 種による脳の違いを作りだすしくみ
  -ヒトの脳の進化に迫る-

 

 

1.脳のパターン形成のしくみ

A) 脳原基のパターン形成のしくみと神経上皮区画の予定運命地図

詳細はこちら

 

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図1

 

B)新たなシグナリングセンターの解析 

 脳原基の領域性が大まかに決まり、脳の各部に異なる形質をもった区画が規定されると、区画を仕切る境界細胞が出現します。多くの境界細胞は、種々の分泌因子を発現し、シグナリングセンターとして隣接する区画のパターン形成を行い、各区画の所定の場所に特定の性質をもった細胞が配置されます。境界細胞は周囲の神経上皮細胞と異なる形態的な特徴を持ち合わせており、私たちはそれを指標に新規の境界細胞を見いだしました。この境界細胞が脳の形態形成に果たす役割や、境界細胞の形成機構の解明を目指しています。

 

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図2

 

2.神経幹細胞の増殖と分化 -脳を作る細胞の数の調節-

  脳や脊髄といった中枢神経系を構成する細胞は、ほぼすべて神経幹細胞から生じます。神経幹細胞や神経前駆細胞は細胞分裂によってその数を増やし、また、分化してニューロンやグリアを産生しますが、いったんニューロンになると、もはや分裂して増えることはありません。

脳の領域によって産生されるニューロンの数は異なり、また同じ領域であっても、発生のステージによってニューロン産生のペースは変化します。すなわち、場所や時期によって「神経幹細胞の増殖と分化のバランス」が正しくコントロールされることで正常な脳が形成されます。私たちは、このバランスの制御に神経上皮の接着帯が重要であることを見いだしました。接着帯が崩壊するとニューロン分化が促進され、安定化させるとニューロン分化が抑えられます。さらに、新生ニューロンの接着帯の保持時間が、周囲の神経幹細胞のニューロン産生ペースに影響することを明らかにしました。各領域や発生ステージによって異なるニューロン産生ペースの制御機構の1つは、接着帯の保持時間の調節であることが示唆されます。

脳の予定運命地図に従って、各領域の神経幹細胞が適切な増殖と分化のバランスをもって発生し、脳組織が構築されることで、脳の高次機能を支える基盤が作られます。神経幹細胞の増殖と分化のバランスを制御するしくみの解明は、次に述べる脳の組織形態の違いを産み出すしくみの解明につながるのではないかと考えています。

 

3.層構造と神経核構造 - 組織構造の違いはどうやって作り出す?-

 先に述べたように、胎児期の神経幹細胞は盛んに細胞分裂を繰り返し、自分自身の数を増やすとともに、ニューロンを産生します。神経幹細胞の分裂によって脳室面で誕生したニューロンは、移動して神経幹細胞の層の上に積み重なり、どんどん厚みを増していきます。この基本的なしくみは中枢神経系のどの領域でも共通です。しかし、場所によってはニューロンが層状に分布し(皮質)、また別の場所では集合塊をつくって組細工のように配置されます(神経核)。共通のニューロン産生のしくみから、どうやってこうした組織の違いがもたらされるのでしょうか。おそらく、各領域で質的に大きく異なるしくみがあるわけではなく、共通の基本メカニズムの量的、時間的な違いが、結果として大きな違いに至っていると推測し、その実像を明らかにしたいと考えています。

また、このような組織形態の違いは、神経幹細胞の場所によって厳密に決まっているように見えます。例えば、神経幹細胞の領域性を人工的に変化させると、それに見合った組織の形態の変化が生じるからです。そこで、パターン形成によって規定された神経幹細胞の領域性と、層や神経核をつくる組織構築のしくみがどう結びついているかを明らかにし、脳の領域特異的な形態形成のしくみを理解したいと考えています。

               
-トリの頭に、哺乳類型の脳を作る!?それも可能かもしれません-

さらに、脳の形態は、動物の種によってきわめて多様化しています。動物の様々な生態を反映して、脳の外観は著しく異なっており、内部の構造も違います。たとえば、私たち人間を含む哺乳類の大脳には「層構造の大脳新皮質」がありますが、鳥類、爬虫類をはじめ、他の脊椎動物では層構造は見られません。ところが、前述のニューロンを産生するしくみは鳥類と哺乳類で共通ですし、神経幹細胞の領域性を決めるしくみや、そこで働く遺伝子も基本的には同じです。それでは、なぜ種間で異なる脳の組織構造ができるのでしょうか。哺乳類は、どうやって層状の大脳新皮質を獲得したのでしょうか。種間で異なる組織形態をつくるしくみと、同じ個体の領域間で異なる組織形態を生じるしくみの関係はどうなっているのか。私たちは、ニワトリ胚とマウス胚を用いて研究を行うことで、このような問いに答えたいと考えています。 

 

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図3

 

4.大脳皮質の領野によって細胞構築が異なるしくみ

  脳原基の領域化(regionalization)によって発生した大脳の中はさらに領域化されて領野が形成されます(arealization)。それぞれの領野は、視覚や聴覚といった異なる生理機能を担っており、どの領野も基本的には6層構造ですが、各々で異なる細胞構築(各層の厚みが異なる6層構造)を持っています。私たちは、このように細胞構築が特異化する機構の解明を目指し、特に大脳外にある視床の特定の神経核から特定の領野へと伸長してくる軸索の役割に着目して研究を行っています。脳が神経回路を形成しながら柔軟に発達していく過程を理解したいと考えています。

 

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図4

 

5.種による脳の違いを作りだすしくみ -ヒトの脳はなぜ大きいの?-

 ヒトは、進化の過程で大きな脳を獲得し、高度な知能を獲得しました。ヒトはいかにして大きな脳を獲得したのか?大きな脳を形成するには、神経幹細胞の高い増殖能力、ニューロンとグリア産生の長期持続が必要です。しかし、哺乳類の間で神経発生の基本原理はほぼ同じと考えられており、種間の脳の違いを作り出す機構は、まだ不明な点が多く、一般的なモデル動物(たとえばマウス)を用いた研究では、解明するのは難しいと考えられています。我々は、多様な哺乳類の脳発生を比較することにより、哺乳類の種間における「脳の大きさの違い」が生じるしくみを明らかにし、霊長類が大きな脳を獲得した機構を解明すること目指しています。 

 

ポリシー

自分達しかできない(やらない)研究を!生命現象を理解する上で新しい概念を創出していけるような、個性ある研究を大事にしていきたいと思っています。

 

実験動物

ニワトリ胚、マウス胚、モルモット胚、サル胚

 

特殊実験技術

移植実験、ニワトリ胚エレクトロポレーション法による遺伝子導入、マウス胚子宮内エレクトロポレーション法による遺伝子導入、神経器官培養、電子顕微鏡(SEM,TEM)、神経組織のイメージングなど

 

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図5

 

入試説明会13ポスター.ppt

図6

 

 
 
 

完成した脊椎動物の脳・神経系に顕著に認められる領域特異性は、原腸陥入に先立って始まる一連のパターン形成活動によって確立する。 形態的、機能的な領域性の顕在化に先立ち、中枢神経系の原基である神経上皮では、種々の転写因子、シグナル分子の発現によって特徴的な区画が視覚化される。 これまでの研究により、シグナリングセンターと呼ばれる特定のシグナル分子を分泌する細胞集団が、脳原基の内外に局所的に分布しており、シグナル分子の作用する範囲、濃度などによって様々なパターンを描き出すことが示されている。 また、シグナルを受ける細胞は、神経上皮上の位置によって反応性が異なっており、シグナル分子によって創られるパターンの多様化に寄与している。 当研究室は、大脳皮質、基底核、視床、視床下部など重要な機能体を擁する前脳の発生に注目し、未知のシグナリングセンターの発見、シグナリングセンターの形成機序をはじめとする脳原基の初期パターン形成機構の解明をめざしている。 さらに、このような初期パターン形成によって規定された区画のなかで、多様な神経細胞が位置特異的に産み出され、配置されるしくみについて、ニワトリの視床における神経核形成をモデルシステムとして解析を行っている。 また、胚におけるパターンが成体の脳組織構築に果たす意義を明らかにするため、生体内組換えを利用した遺伝学的手法を用いて、遺伝子発現に基づく神経上皮細胞の細胞系譜を詳細に追跡し、神経上皮区画の予定運命地図の作製を試みている。このような解析結果を蓄積することによって、脳組織を構成する神経細胞の神経上皮上の起源が明らかになり、初期パターン形成機構に関する知見と統合することで、神経幹細胞を用いた再生医療技術開発への貢献が期待される。

 

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