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分  野多能性幹細胞分野 (旧 幹細胞制御分野)
掲載日2009年 4月 28日
タイトル
膵臓前駆細胞の起源と内胚葉領域化:中胚葉と内胚葉の重なりが領域化を決定

Keiichi Katsumoto, Kimiko Fukuda, Wataru Kimura, Kenji Shimamura, Sadao Yasugi and Shoen Kume, Origin of pancreatic precursors in the chick embryo and the mechanism of endoderm regionalization. Mechanisms of Development doi:10.1016/j.mod.2009.03.006 .

  最近、臓器再生医療に対する関心や期待は大きく、体細胞から多分化能を持つ iPS (induced pluripotent stem) 細胞の作製は、大きなインパクトを与えた。臓器再生研究が注目を浴びる中で、糖尿病根治治療の一つの手段として、 iPS 細胞から、インスリンを分泌するβ細胞を分化誘導し再生医療へ応用する試みに、大きな期待が寄せられている。多能性幹細胞分野(粂 昭苑教授)では、 ES (embryonic stem) 細胞から膵臓前駆細胞( Pdx1 陽性細胞)を効率よく分化誘導する方法を開発した( Stem Cells, 2008 )。 ES 細胞を用いた臓器再生研究から も 多くの知見が得られているが、正常発生を理解することによりさらに効果的かつ効率的な臓器再生が行える。今回、多能性幹細胞分野の勝本恵一博士( GCOE リサーチ・アソシエイト)らは、ヒトと似た発生様式であるニワトリ胚をモデル動物として、初期胚における初期膵臓形成過程の一端を明らかにした。膵臓前駆細胞がどこに存在しているのかを明らかにする目的で、 DiI 結晶を用いる細胞標識法で、初期内胚葉における詳細な細胞運命予定地図を作製した。背側膵臓前駆細胞は、ヘンゼン結節周辺に存在し、発生の進行に伴い、連続的に尾側へ移動すること を明らかにした。細胞運命予定地図を基に細胞移植実験を行なった結果、胃、腸、膵の順序で内胚葉の領域化が決定することがわかった。さらに、まだ運命が決定していない予定小腸内胚葉を、予定胃領域に移植すると、異所膵を形成した。予定胃と膵臓の内胚葉を裏打ちする中胚葉は、膵臓誘導シグナルを出している。一方、予定膵臓、小腸内胚葉は、この膵臓誘導シグナルに応答する。中胚葉と内胚葉は、移動して位置を変え、それぞれの移動速度に差があり、膵臓誘導シグナルを出す領域とそれに応答する領域が重なる領域から膵臓が発生してくる。このように、初期内胚葉の領域化は、頭側と尾側から進行し、さらに膵臓領域が形成されるためには、中胚葉と内胚葉が移動して、移動速度の差により生じた中胚葉と内胚葉の重なりが決定的な役割を担っていることを明らかにした。この研究成果は、初期膵臓形成メカニズムを分子レベルで解明するための、大きなヒントになる。本研究は、首都大学東京(八杉研究室)と脳発生分野(嶋村健児教授)との共同研究で行われ、 Mechanisms of Development 誌電子版に先行掲載された。 

 

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図 膵臓領域化の新しいモデル

 

初期内胚葉では、予定膵臓および小腸領域(薄紫)が膵臓誘導シグナルに応答できるのに対して、予定胃領域(薄青)は反応できない。一方、初期中胚葉では、膵臓誘導シグナルは、予定胃から膵臓領域(薄茶)に存在するが、予定小腸領域(薄緑)には存在しない。初期膵臓領域は、この内胚葉と中胚葉の重なる領域に形成される。青:胃領域 緑:腸領域