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分  野腎臓発生分野 (旧 細胞識別分野)
掲載日2009年 5月 7日
タイトル
Sall 遺伝子群は Hox の活性を調節することによって四肢形成を制御する

Yasuhiko Kawakami, Yukako Uchiyama, Concepcion Rodriguez Esteban, Toshiaki Inenaga, Naoko Koyano-Nakagawa, Hiroko Kawakami, Merce Marti, Marie Kmita, Paula Monaghan-Nichols, Ryuichi Nishinakamura, and Juan Carlos Izpisua Belmonte.

Development (2009) 136(4):585-594 .

  腎臓発生分野(西中村隆一教授)では、核内因子 Sall ファミリーの機能を、主にマウスの腎臓と ES 細胞において解析してきた。今回、川上泰彦博士 ( 昨年ミネソタ大学で独立 ) 、 Belmonte 博士 ( ソーク研究所 ) らとの共同研究により、 Sall1 と Sall3 が指の発生に必須であることを明らかにした。これは7年前、西中村教授が Sall1/Sall3 ダブルノックアウトマウスの指が3本しかないことを見いだしたことに遡る。ダブルヘテロ接合体がほぼ不妊のため、腎臓発生分野の内山裕佳子博士 ( グローバル COE リサーチ・アソシエイト ) 、稲永敏明博士 ( 文部科研研究員 ) らが毎回体外受精を行なってノックアウトマウスの胎仔を採取し、ミネソタ大学の川上博士に空輸することによって、解析を行なった。その結果、 Sall1/Sall3 は Shh シグナルに部分的に関わるのに加え、 Hox の活性も調節していることを明らかにした。四肢の発生には Hoxa13/Hoxd13 が必須であり、これらは第1指側の前駆細胞の接着を制御する Epha4 の発現を抑制した。逆に、 Sall1/Sall3 は Epha4 プロモーターに Hoxa13/Hoxd13 と競合して結合することによって、 Epha4 を活性化した。さらに Sall1/Sall3 自体の発現は、 Hoxa13/Hoxd13 によって抑制された。よって Sall が、 Hox によって適度に抑えられつつ、 Hox と拮抗することによって Epha4 を調節して四肢を形成していることが明らかになった。 また ヒト SALL1 の変異による Townes-Brocks 症候群では、変異型 SALL1 蛋白が他の SALL ファミリーを抑制すると考えられているが、今回の知見から、この疾患で見られる指の異常は、 SALL1 の欠損に加えて SALL3 の抑制のためであろうと推測される。本研究成果は Development 誌 2 月号に掲載された。

 

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図説明 A.  Sall1/Sall3 ノックアウトマウスは第1-3指に異常を呈する。

B. Sall1/Sall3 は Shh によって制御され、そのシグナルにも部分的に関わる。

C. Sall1/Sall3 は Hoxa13/Hoxd13 によって負に制御されつつ、 Epha4 に対しては Hox と競合する。