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分  野分子細胞制御分野
掲載日2008年 8月 4日
タイトル
p97 の線虫由来ホモログ CDC-48.1 と CDC-48.2 はハンチントン病の原因タンパク質であるハンチンチンの凝集を抑制する

Shingo Nishikori, Kunitoshi Yamanaka, Toshihiko Sakurai, Masatoshi Esaki,and Teru Ogura. p97 homologs from C. elegans , CDC-48.1 and CDC-48.2, suppress the aggregate formation of huntingtin exon1 containing expanded polyQ repeat. Genes to Cells (2008) 13 , 827-838

 近年、アルツハイマー病やポリグルタミン病といった神経変性疾患がタンパク質の凝集によって引き起こされることが明らかになり、生体内におけるタンパク質凝集体に対する防御因子の同定およびその作用機構の解明が重要な課題となっている。細胞複製分野(小椋 光教授)では、すでに AAA ファミリーと呼ばれるタンパク質群のひとつ、 p97 の線虫ホモログ CDC-48.1 と CDC-48.2 が線虫の細胞内でポリグルタミン凝集体の蓄積を抑制することを明らかにしている( Yamanaka et al . (2004) J. Struct. Biol 146 , 242-250 )。今回、同分野の錦織伸吾(学振特別研究員)らは、精製タンパク質を用いた試験管内反応系で凝集抑制機構を分子レベルで解析し、 CDC-48.1 と CDC-48.2 がポリグルタミンタンパク質に直接結合して凝集体形成に影響を及ぼすことを明らかにした。

ポリグルタミン病は原因タンパク質に存在するグルタミンの繰返し配列が異常伸長することによって発症する疾患である。本研究では、ポリグルタミン病のひとつ、ハンチントン病の原因タンパク質であるハンチンチンを基質として用いた。ポリグルタミン配列を異常伸長させたハンチンチンはアミロイド様の線維状凝集体を形成したが、線虫由来 p97 ホモログ CDC-48.1 または CDC-48. を添加するとこの凝集体形成が抑制された。また p97 ホモログはハンチンチンに直接作用していた。これらの結果から、 p97 はタンパク質凝集を防ぐ分子シャペロンとして機能することがわかった。

また、最近の研究から、凝集体形成過程で生じる比較的低分子量の中間体が大きなタンパク質凝集体自体よりも強い細胞毒性を示すことが明らかになってきた( Haass, C. & Selkoe, D.J. (2007) Nat. Rev. Mol. Cell. Biol. 8, 101-112. )。そこで、 CDC-48.1 と CDC-48.2 が存在するときのハンチンチンを調べたところ、凝集体( >1,000 kDa )の減少とともに、 70-150 kDa のオリゴマーも減少し、代わりに 300-500 kDa のオリゴマーが蓄積していた。この結果は、 CDC-48.1 と CDC-48.2 が細胞毒性の強い小さな中間体を毒性の少ない大きな中間体へと変換させていることを予測させる。今後、ハンチンチンの細胞毒性に与える p97 の影響を調べることで、ポリグルタミン病の発症機構および p97 による防御機構が明らかになると期待されるであろう。この研究成果は Genes to Cells 誌 8 月号に掲載された。

 

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図  p97 によるポリグルタミンタンパク質の凝集抑制作用。線虫由来 p97 ホモログ CDC-48.1 と CDC-48.2 はポリグルタミンタンパク質の凝集過程で形成される中間体構造を変化させることで凝集体形成を抑制している。