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分  野分子細胞制御分野
掲載日2014年 7月 1日
タイトル
走査透過型超高圧電子顕微鏡を用いて細胞内の微細構造の3次元観察に成功

Kazuyoshi Murata, Masatoshi Esaki, Teru Ogura, Shigeo Arai, Yuta Yamamoto, Nobuo Tanaka. Whole-cell imaging of the budding yeast Saccharomyces cerevisiae by high-voltage scanning transmission electron tomography. Ultramicroscopy 146, 39-45, 2014

 光学顕微鏡は可視光( >300 nm)を用いて観察を行うことから,数百nm以下の構造を観察することは理論上不可能である。一方,電子顕微鏡(電顕)では観察に電子線( <10 pm)を用いることから,理論上原子レベルの分解能が可能であり,生物の分野では細胞内の微細構造や巨大分子などを可視化し,3次元情報を取得することができる。しかしながら,一般に生物電顕で用いられる厚い試料(数µm程度)に対しては、電子線が十分に透過できなかったり,到達できたとしても電子の非弾性散乱や多重散乱による像ボケが深刻となることから,高い解像度での試料の観察は極めて困難であった。出芽酵母も3~5 µm程度の大きさであり,通常の電子顕微鏡法では,その細胞内構造を一度に可視化することは不可能であった。

そこで,分子細胞制御分野(小椋 光教授)は,生理学研究所と名古屋大学との共同研究によって,1 MeVの高圧で加速した電子線を用いた走査透過型電子顕微鏡(ST-HVEM)という最新の観察技術を用いて,酵母細胞全体の3次元観察に挑戦した。この方法は、高加速電子を用いることによって、数µmの試料でも十分に電子が透過でき,また,厚い試料を,直径数nmの電子線プローブを用いて走査し,透過像を微小な点から独立に集めるため,非弾性および多重散乱電子の画像への影響が抑えられる。その結果,樹脂に包埋した約3 µmの酵母細胞において,核やミトコンドリアなどの細胞内構造や,数十nmの膜構造の観察にも成功した。これは,厚い生物試料について超薄連続切片を用いずに細胞内構造を直接3次元観察した初めての例であり,Ultramicroscopy誌に掲載された。また,本研究の一部は、当研究所が推進する「発生医学の共同研究拠点」制度に基づく生理学研究所の村田和義准教授の採択課題として実施された。

 

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図 酵母の走査透過型超高圧電子顕微鏡観察による3次元再構成像
細胞膜(緑),核(赤),液胞(青)およびミトコンドリア(黄)がはっきりと観察された。