ニュープレス

⇒NewPress一覧へ

分  野多能性幹細胞分野
掲載日2013年 12月 25日
タイトル
膵β細胞の分化を小胞型モノアミントランスポーター VMAT2が制御することを発見

Daisuke Sakano, Nobuaki Shiraki, Kazuhide Kikawa, Taiji Yamazoe, Masateru Kataoka, Kahoko Umeda, Kimi Araki, Di Mao, Naomi Nakagata, Shirou Matsumoto, Olov Andersson, Didier Stainier, Fumio Endo, Kazuhiko Kume, Motonari Uesugi and Shoen Kume. (2013) VMAT2 identified as a regulator of late-stage βcell differentiation. Nature Chemical Biology. DOI: 10.1038/NCHEMBIO.1410

 膵臓β細胞は血液中の グルコース 糖の濃度を正常に維持するために必要なインスリンを産生分泌しています。インスリン産生が不十分、あるいはインスリンの作用が悪くなると糖尿病を発症します。重篤な糖尿病では、インスリンが作れなくなり、血糖コントロールが困難な状況に陥ってしまい、移植医療が必要になりますが、ドナー不足が大きな問題点となっており、その解決には、多能性幹細胞を用いた再生医療が期待されています。

哺乳類の発生において、膵臓は胚性内胚葉、膵前駆細胞、内分泌前駆細胞を経てインスリンを産生する β 細胞へ分化します。従来の ES・iPS細胞の培養手法は、膵臓の自然な発生過程で使われている液性因子を試験管内で連続的な添加によってPdx1陽性の膵前駆細胞まで高い効率で分化誘導することを可能になりました(Shirakiら、2008)。しかし、分化機構が分からない場合では、この手法ではうまく行きません。本研究では、細胞内の未知なシグナルを活性化あるいは不活性化させる低分子化合物を見つけることで、膵臓β細胞への分化促進を狙いました。もし分化促進化合物が見つかれば、分化に関わるシグナル分子を突き止めること、さらに化合物を利用して分化細胞を得ることができます。

本研究では、まず、マウス ES細胞から膵前駆細胞を誘導した後、1,120の低分子化合物の中から 小胞型モノアミントランスポーターの 1つ VMAT2の阻害剤が膵前駆細胞から内分泌前駆細胞への分化を促進する効果があることを見出しました。モノアミンはβ細胞の分化を阻害する作用があることから、 VMAT2は発生過程で細胞内のモノアミン量の調節を介して、β細胞数を制御する役割を担っていると考えられます。実際、膵臓の発生過程においてもモノアミンにより分化が調節されていることを明らかにしました。さらに今回の研究では、 cAMPによりβ細胞の成熟化が促進され、グルコース濃度に応じたインスリン分泌能をもったβ細胞が得られることを見出しました。

上記の 2つの低分子化合物(VMAT2阻害剤およびcAMP)をES細胞に作用させることにより、成体膵島に近いインスリン含量と高グルコース濃度に応じたインスリン分泌能をもった膵β細胞を作製でき、糖尿病モデルマウスの高血糖を正常化できました。このように、膵β細胞の作製に VMAT2阻害剤が有効であることを発見し、再生医療への展望が開けましたが、ヒトiPS細胞から膵β細胞の作製に、今回得られた情報をいかに応用していくかが今後の課題です。本研究成果は、 Nature Chemical Biology 誌電子版に先行掲載されました。

 

np67

図. VMAT2阻害剤の効果

 

ES細胞は内胚葉細胞・膵前駆細胞・内分泌前駆細胞を経てインスリンを産生するβ細胞へと分化する。 

VMAT2阻害剤を添加することで細胞内のモノアミン量が低下する。その結果、膵前駆細胞から内分泌前駆細胞が分化する過程が促進され、最終的なβ細胞など内分泌細胞の誘導効率が上昇する。また、細胞透過性 cAMPを加えるとグルコース濃度に応じたインスリン分泌能を獲得する。

VMAT2阻害剤 および cAMPの添加により、成体膵島に近いインスリン含量、グルコース感受性インスリン分泌能をもった膵β細胞が得られる。