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分  野多能性幹細胞分野
掲載日2013年 2月 18日
タイトル
Wnt シグナルと Notch シグナルが小腸上皮細胞への分化を導く

Soichiro Ogaki, Nobuaki Shiraki, Kazuhiko Kume, and Shoen Kume*,

* Corresponding author.

Wnt and Notch signals guide embryonic stem cell differentiation into the intestinal lineages,Stem Cells , 2013

 多能性幹細胞分野(粂 昭苑教授)では ES 、 iPS 細胞を用いた内胚葉系譜の組織である膵臓への分化誘導法の構築を行っている。今回、同分野の大垣総一郎(博士課程学生)らは、 Wnt シグナルと Notch シグナルがマウス、ヒト ES 細胞から内胚葉系譜の小腸上皮の細胞への分化に関与することを初めて明らかにした。万能性幹細胞を用いた小腸上皮細胞への分化誘導研究は 発生研 究や薬物動態研究において重要であり、また重度の炎症性腸疾患などの治療法として小腸上皮細胞の移植を必要とするため再生医療においても重要である。近年、成体の腸幹細胞研究は盛んであるが、万能性幹細胞からの研究はあまり行われていない。

今回の研究では、万能性幹細胞である ES 細胞から内胚葉の細胞に分化後、様々な液性因子を添加した結果、 Wnt シグナルを活性化し、 Notch シグナルを抑制することで小腸上皮の細胞への分化が促進され、全体の 88% 程度の細胞が小腸上皮の細胞となった。またこの分化過程には Fgf や Bmp 、 Hh シグナルも関与していることが示唆された(図左)。この ES 細胞由来の小腸上皮細胞には、吸収腸細胞など成体小腸上皮を構成する様々な細胞も存在していた(図右)。今後はこの細胞を用いた小腸の発生メカニズムや 炎症性腸疾患の 病因解明などの基礎研究と創薬や再生医療などの応用研究が期待できる。本研究成果は 2013 年2月5日に Stem Cells 誌電子版に先行掲載された。

 

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図 (左)マウス ES 細胞由来小腸上皮細胞。小腸上皮マーカー CDX2( 赤 ) と上皮マーカー E -カドヘリン(緑)を発現する。(右)ヒト ES 細胞由来の小腸上皮細胞(赤)。小腸上皮細胞にはアルカリフォスファターゼ (ALP) 活性(黒色)を有する吸収腸細胞が含まれている。スケールバー ; 100 μm