ニュープレス

⇒NewPress一覧へ

分  野細胞複製分野(現・分子細胞制御分野)
掲載日2007 年 10月 9日
タイトル
線虫 AAA 型シャペロン p97 とユビキチンリガーゼ HRD-1 は、 BiP シャペロンと共同して腸顆粒の形成と生殖腺形成に関与する

Sasagawa, Y., Yamanaka, K. and Ogura, T. ER E3 ubiquitin ligase HRD-1 and its specific partner chaperone BiP play important roles in ERAD and developmental growth in C. elegans. Genes Cells 12, 1063-1073, 2007.

  小胞体関連分解( ERAD; ER-associated degradation )では、小胞体内の不要タンパク質がユビキチン化を伴いサイトゾルに逆輸送されて、最終的に 26S プロテアソームによって分解される。これらの過程において、 AAA 型シャペロンである p97 と E3 ユビキチンリガーゼが中心的な役割を果たすことが知られており、これらの因子の生化学的特性は詳しく解析されてきた。一方で、これらの因子の発生や組織形成における細胞機能はほとんど明らかにされていない。今回、細胞複製分野(小椋 光教授)の笹川洋平研究員らは、 p97 と E3 ユビキチンリガーゼの1つ HRD-1 が、 BiP シャペロンと関連し、腸顆粒の形成と生殖腺形成に関与することを見いだした。

 機能の重複する 2 つの線虫 p97 ( CDC-48.1, CDC-48.2 )のダブルノックダウン、および p97 のアダプター分子である UFD-1 のノックダウン個体では、腸顆粒の蓄積とともに生殖腺の形成不全が観察され、さらに BiP の1つである HSP-4 の発現上昇が観察された(図 A, B 矢印、 C )。次に、 p97 と相互作用する E3 ユビキチンリガーゼ Hrd1 、 gp78 、 MARCH VI/Doa10p の線虫ホモログ( HRD-1, HRDL-1, MARC-6 )を単離し、詳しく解析した。その結果、 hrd-1 変異体でのみ、 p97 ノックダウンと同様に HSP-4 の発現上昇が観察された。線虫の BiP シャペロンは、 HSP-4 の他に HSP-3 が存在する。これら2つの BiP シャペロンと HRD-1 との関連性を調べるため、ダブルノックアウト個体を作製した。その結果、 hrd-1;hsp-3 ダブルノックアウト個体において腸顆粒の異常が観察された(図 B 矢印)が、生殖腺形成不全は観察されなかった(図 C 矢尻)。一方で hrd-1;hsp-4 ダブルノックアウト個体では腸顆粒の異常は観察されなかった(図 B )が、生殖腺の形成不全が観察された(図 C )。これらの結果から、 HRD-1 が 2 つの BiP シャペロンを使い分け、それぞれ異なる細胞機能に関与することが示唆された。これらの研究成果は、 Genes to Cells 誌 2007 年 9 月号に発表された。

 

np23enp9

図: HRD-1 ユビキチンリガーゼによる BiP シャペロンの使い分け

 

hsp-4 プロモーターによって GFP を発現誘導する系統を使用し、 CDC-48.1 および CDC-48.2 をダブルノックダウンした。上側線虫がダブルノックダウン個体。下側が RNAi コントロール個体。ダブルノックダウン個体で GFP 発現上昇と、腸の黒い顆粒が観察された。 

B 各変異体およびノックダウン個体から腸を切りだし、スライドガラスに貼り付け観察した。 hrd-1;hsp-3 変異体、 p97 および UFD-1 ノックダウン個体で、黒い腸顆粒が観察された。 hrd-1;hsp-4 変異体では観察されなかった。黄色の矢印は異常な黒い腸顆粒を指し示す。

C 各変異体およびノックダウン個体を固定し、 DAPI 染色した。 hrd-1;hsp-4 変異体、 p97 および UFD-1 ノックダウン個体で、生殖腺が形成されなかった。赤の矢尻は生殖腺を指し示す。 hrd-1;hsp-3 変異体では、生殖腺形成異常は観察されなかった。

スケールバー: 0.1mm