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分  野パターン形成分野(肝臓発生分野)
掲載日2007 年 7月 26日
タイトル
Neurturin-GFRα2 シグナリングはニワトリ胚における肝芽の静脈管に沿った移動を制御する

Norifumi Tatsumi, Rika Miki, Kenjiro Katsu, and Yuji Yokouchi (2007) Neurturin-GFRα2 signaling controls liver bud migration along the ductus venosus in the chick embryo. Developmental Biology, 307, 14?28.

  ニワトリ胚肝臓は、前腸腹側部に誘導された肝芽が横中隔間充織に突出して静脈に沿って前方向へと伸長し、最終的に静脈管 (ductus venosus) を取り囲むことで形成される(図 I )。しかし、この肝芽の形態形成を制御する分子メカニズムはほとんど明らかにされていない。パターン形成分野(横内裕二教授)の辰巳徳史(博士課程大学院生)らは、神経軸索の伸長に関与する神経栄養因子 Neurturin (NRTN) の選択的レセプターである GFRα2 が肝臓で発現しているという報告に注目し、初期ニワトリ胚における NRTN と GFRα2 の発現を調べたところ、それぞれ静脈管と肝芽で発現することを見いだした(図 I )。そこで、機能解析を行ったところ、シグナル阻害実験では肝芽の静脈管に沿った伸長が抑制され(図 A, B )、 NRTN の異所発現では異所的な肝細胞マーカーの発現が見られた(図 C, D )。さらに、肝芽と NRTN をしみ込ませたビーズ(= NRTN ビーズ)を用いた共培養実験では、肝芽が NRTN ビーズに誘引されることが確認された(図 E-H )。以上の結果は、ニワトリ胚肝芽形態形成過程において静脈管内皮細胞で発現する NRTN は GFRα2 を発現する肝芽細胞を誘引し、その移動を制御していることを示す(図 I )。本研究は肝芽形態形成が化学誘引物質によって制御されていることを初めて示したものであり、肝芽細胞を人工的に任意のパターンで配置する方法の確立にも道を拓く基礎医学的に重要な発見である。この研究成果は、 Developmental Biology 誌 2007 年 7 月 1 日号に発表された。

 

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図: NRTN-GFRα2 シグナリングは肝芽の移動を制御する 

A, B は肝芽にコントロールベクター( control )、 GFRα2-Fc 発現ベクターをそれぞれ導入しシグナル阻害を行った結果を示す。 GFRα2-Fc により肝芽の伸長が抑制された( B, 矢尻)。 C, D は十二指腸にコントロールベクター( control )、 NRTN 発現ベクターを導入し異所発現を行った結果を示す。 NRTN の異所発現により肝細胞マーカーの発現が異所的に見られた( D, 矢尻)。 E-H は肝芽をコントロールビーズ、 NRTN ビーズと共培養した結果を示す。培養 24 時間後、肝芽は NRTN ビーズのみに伸長している( H, 赤矢印)。 I は本研究で得られた結果を説明する模式図。赤い円筒は NRTN (四角)を発現する静脈管、青は GFRα2 を発現する肝芽、赤矢印は肝芽の伸長方向を示す。