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分  野転写制御分野
掲載日2007 年 1月 17日
タイトル
HIPK2 は大動脈 - 生殖原器 - 中腎 (AGM) 領域で起こる造血を抑制する

Naoki Ohtsu, Ikuo Nobuhisa, Miyuki Mochita, and Tetsuya Taga (2007) Inhibitory effects of homeodomain-interacting protein kinase 2 on the aorta-gonad-mesonephros hematopoiesis. Exp. Cell Res. 313, 88-97.

 成体型造血幹細胞 (HSCs) は、胎生中期マウスの大動脈 – 中腎 – 生殖原器 (AGM) 領域にある細胞が様々なサイトカインや増殖因子の刺激を受けることで生じる。転写制御分野(田賀哲也教授)ではこれまでに AGM 領域で起こる造血には、 IL-6 ファミリーサイトカイン受容体構成分子 gp130 を介して転写因子 STAT3 が活性化されることが必須であることを明らかにしていた。また、 AGM 造血において、 IL-6 ファミリーサイトカイン oncostatin M (OSM) によるシグナル伝達経路の下流で働く STAT3 の作用機構を解析するために、 STAT3 をリン酸化する因子を検索し、 homeodomain-interacting protein kinase 2 (HIPK2) を単離していた。 HIPK2 は転写コリプレッサーとして知られ、細胞の増殖もしくはアポトーシスを制御するが、胎仔造血における機能は全く未知であった。今回、同分野の大津直樹(博士課程大学院生)らは、 HIPK2 が AGM 造血において何らかの役割を担っていると考え、その機能を解析した。 AGM 領域はトリプシンで分散した後、サイトカイン存在下で培養することで、含まれる血管 / 血液前駆細胞を血管内皮細胞や血球細胞へと分化させることができる。また、この分散培養系ではレトロウイルスを用いることで遺伝子導入を容易に行うことが可能である。そこで、まず、この分散培養系で HIPK2 を過剰発現すると、血球前駆細胞 (CD45 low c-Kit + cells) の産生が抑制されることを見出した。このとき血球前駆細胞の産生は完全には抑制されず、わずかに産生してくる。この血球前駆細胞をフローサイトメトリーで分取した後に半固形培地中で培養すると、マクロファージ、顆粒球、及び赤血球により構成されるコロニーは検出されなかった。さらに、この血球分化抑制には HIPK2 のキナーゼドメインと核移行シグナルが必須であることも明らかにした。これらの結果は HIPK2 が AGM 領域で起こる造血を負に制御することを示唆している。この研究成果は、 Exp. Cell Res. 誌 1月 1日号に発表された。

 

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図  HIPK2 は血管 / 血球共通の前駆細胞から血球前駆細胞やマクロファージ、顆粒球、及び赤血球などへの分化を抑制することが示唆された。