ニュープレス

⇒NewPress一覧へ

分  野組織幹細胞分野
掲載日15-Sep-2021
タイトル
血管内皮細胞の血管新生能を制御する分子を発見

Kiyomi Tsuji-Tamura, Saori Morino-Koga, Shingo Suzuki and Minetaro Ogawa

The canonical smooth muscle cell marker TAGLN is present in endothelial cells and is involved in angiogenesis. J. Cell Sci. 2021: doi: 10.1242/jcs.254920.

 血管新生は、新しい血管ができることであり、組織の成長や創傷治癒に必要な生理的プロセスです。通常、血管新生は厳密に制御されており、必要に応じて促進または抑制されています。しかし、腫瘍や慢性炎症性疾患では、適切な制御から外れた血管新生が誘導され不規則な血管の過形成が起こり、これらは癌の増殖や疾患の増悪の原因となっています。

 

 血管を構成している血管内皮細胞の伸長は、血管新生で起こる基本的な細胞活動の一つであり、血管伸長機能の調節メカニズムの解明は、血管新生の仕組みを明らかにし血管新生をコントロールする方法の開発につながると期待されています。組織幹細胞分野の田村-辻潔美助教(現: 北海道大学歯学研究院口腔生化学教室)、古賀沙緒里助教と小川峰太郎教授は、マウスES細胞から分化誘導した血管内皮細胞とヒト初代血管内皮細胞を用いて、血管の伸長機能を抑制し血管新生を負に制御する分子としてTAGLN(Transgelin,SM22)を発見しました。

 

 TAGLNは、平滑筋細胞に豊富に存在するアクチン関連タンパク質であり、平滑筋分化マーカーとして知られています。しかし田村-辻助教らは、血管内皮細胞においても、その伸長に伴いTAGLNの発現が誘導されること、TAGLN遺伝子の欠如が血管伸長を促進することを明らかにし、TAGLNが血管内皮細胞の伸長機能を抑制する因子であることを発見しました。血管内皮細胞はTAGLNの他にも、2つのアイソフォームTAGLN2,TAGLN3を発現しており、これらのTAGLNアイソフォームは重複した機能を持ち血管伸長の抑制に働きます。TAGLNの発現は、腫瘍や妊娠糖尿病等の病的血管内皮細胞においても増加することが知られており、血管新生におけるTAGLNの生理的または病理学的な役割が示唆されています。この研究成果は、Journal of Cell Science 誌オンライン版に2021年8月2日に掲載されました。

 

図:血管内皮細胞におけるTAGLNの役割

血管前駆細胞から分化した血管平滑筋細胞はTAGLNを強く発現しますが、血管内皮細胞はTAGLNを発現しません。この発現様式によりTAGLNは平滑筋分化マーカーとして利用されています。今回の研究では、血管内皮細胞が血管新生刺激を受けて伸長するのに従いTAGLNの発現が誘導され、TAGLNは血管伸長を抑制していることがわかりました。