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分  野幹細胞制御分野
掲載日2009年 3月 9日
タイトル
ES 細胞から三胚葉への分化誘導

Nobuaki Shiraki, Yuichiro Higuchi, Seiko Harada, Kahoko Umeda, Takayuki Isagawa, Hiroyuki Aburatani, Kazuhiko Kume, and Shoen Kume, Differentiation and characterization of embryonic stem cells into three germ layers. Biochem. Biophys. Res. Commun . 10.1016/j.bbrc.2009.02.120 2009

  ES 細胞は、初期胚に由来する多能性幹細胞で、細胞系譜の決定や可塑性などの機構について解析するのに適した系であり、 ES 細胞から各胚葉を誘導する技術については、多くの報告があるが、一つの系で三胚葉への分化を同時に観察できる分化誘導系の報告はこれまでなかった。今回、幹細胞制御分野(粂昭苑教授)の白木伸明博士( GCOE リサーチ・アソシエイト)らは、 ES 細胞から三胚葉(内胚葉・中胚葉・外胚葉)を効率よく分化誘導できる方法を開発し、報告した。白木らは、これまでに中胚葉由来の培養細胞株 M15 細胞を用いて内胚葉組織である膵臓および肝臓を効率的に分化誘導する方法を報告しており( Stem Cells, 2008; Genes Cells, 2008 )、これらの研究で得られた知見を参考にして、 M15 細胞と液性因子の添加を組み合わせることにより、今回初めて、 ES 細胞から内胚葉のみならず中胚葉および外胚葉を効率よく分化誘導することに成功した(図1)。アクチビンおよび bFGF を添加することにより中内胚葉・内胚葉を、 BMP7 を添加することにより中胚葉を、 P38 MAPK の阻害薬である SB203580 を添加することにより神経外胚葉を効率的に分化誘導することができた(図2)。分化誘導した各細胞について、マイクロアレイ解析を行った結果、各種マーカー遺伝子の発現を確認できた。さらに長期培養を行った結果、神経系ではニューロンのみならずアストロサイトやオリゴデンドロサイトへの分化、中胚葉系では骨や脂肪細胞への分化が見られた。以上のことから、 M15 細胞を用いて分化誘導した細胞は、成熟した神経および中胚葉へ分化する能力を有していることが明らかになった。本論文で開発した分化誘導系やそこから得られる三胚葉の細胞を利用することで、発生初期現象のさらなる解明が期待される。この研究成果は 3 月 2 日の Biochem. Biophys. Res. Commun. 電子版に先行掲載された。

 

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図1(上)  ES 細胞から三胚葉への分化誘導の模式図

M15 細胞上に ES 細胞を播種して分化誘導を開始した。培養液中にアクチビンおよび bFGF の添加で中内胚葉・内胚葉へ(緑矢印)、 BMP7 の添加で中胚葉へ(青矢印)、 SB203580 の添加で神経外胚葉(赤矢印)へと効率的に分化誘導することに成功した。

 

図2(下)  M15 細胞は、添加する液性因子の組み合わせを換えることで、 ES 細胞から内胚葉、中胚葉および外胚葉へと効率よく分化誘導できる。グラフは分化誘導5日目の各胚葉の割合を示している。白色;内胚葉、灰色;中胚葉、黒色;神経外胚葉。