論文名:Iron supplementation alleviates pathologies in a mouse model of facioscapulohumeral muscular dystrophy.
著者:Kodai Nakamura, Huascar Pedro Ortuste Quiroga, Naoki Horii, Shin Fujimaki, Toshiro Moroishi, Keiichi I Nakayama, Shinjiro Hino, Yoshihiko Saito, Ichizo Nishino, Yusuke Ono*.
掲載誌:J Clin Invest 2025 Jul 1:e181881.
DOI: 10.1172/JCI181881.
(ポイント)
(概要説明)
FSHDは、遺伝性かつ進行性の筋疾患で、現在根本的治療法はありません。FSHDでは、DUX4という細胞毒性をもつ転写因子が骨格筋に誤発現します。DUX4の誤発現はFSHDの発症要因になると考えられていますが、DUX4がどのように細胞毒性を発揮し骨格筋に障害を与えるのか、そのメカニズムについてはあまりわかっていません。
今回、熊本大学発生医学研究所 筋発生再生分野の中村晃大研究員、小野悠介教授らの研究チームは、DUX4が誘発する細胞毒性に微量元素である鉄の代謝異常が関連することを見出し、FSHDの新規治療標的になり得ることを報告しました。
本研究では、FSHD患者およびFSHDモデル(DUX4-Tg)マウスの骨格筋において鉄が異常蓄積していることを観察しました。そこで体内の鉄を減らすと病態が改善すると予想し、検証しました。DUX4-Tgマウスに、鉄キレート剤の投与、低用量鉄含有食の摂餌、あるいは遺伝子改変から細胞内鉄取り込みを阻害したところ、予想に反し、筋力低下等のFSHD病態は改善されず、むしろ悪化させました。一方、意外にも、高用量鉄含有食の摂餌または鉄製剤を静脈投与すると、DUX4-Tgマウスの筋内異常鉄蓄積、握力、走力、自発的運動量等は著しく改善されました。さらに、骨格筋に発現したDUX4は、鉄依存性細胞死であるフェロトーシス経路を活性化させることを見出しました。フェロトーシス関連化合物ライブラリーを用いたハイスループットスクリーニングを実施したところ、フェロトーシス阻害剤フェロスタチン-1(Fer-1)を同定しました。DUX4-TgマウスにFer-1を投与すると握力や走力に顕著な改善効果が認められました。
以上の結果から、DUX4が誘発する細胞毒性に鉄代謝異常をともなうフェロトーシス経路の活性化が関連することが明らかになりました(概要図)。今後、さらなるメカニズムを解明し、有効かつ安全なFSHD治療法の開発を推進します。
本研究成果は,米国の医学雑誌「Journal of Clinical Investigation」への掲載に先立ち、令和7年7月1日(米国東部標準時午後12時)にIn-Press Preview版としてオンライン公開されました。
なお、本研究は熊本大学発生医学研究所細胞医学分野の日野信次朗准教授、東京科学大学難治疾患研究所の諸石寿朗教授、東京科学大学高等研究府の中山敬一特別栄誉教授、国立精神・神経医療研究センター神経研究所の斎藤良彦リサーチフェロー、西野一三部長との共同研究で行ったものです。
概要図.鉄代謝やフェロトーシス経路はFSHDの新規治療標的となるか?