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分  野多能性幹細胞分野
掲載日2011年 4月 13日
タイトル
膵臓の起源は、初期内胚葉と血管芽細胞の出会いから -仲人は、ケモカインシグナル-

Keiichi Katsumoto and Shoen Kume (2011) Endoderm and mesoderm reciprocal signaling mediated by CXCL12 and CXCR4 regulates the migration of angioblasts and establishes the pancreatic fate. Development , in press

 多能性幹細胞分野(粂 昭苑教授)では、 ES 細胞を用いた膵臓の再生研究を行っている。そのためには、正常発生過程の理解が必要不可欠である。

  膵臓を構成するすべての細胞(内分泌細胞、外分泌細胞、導管)は、 Pdx1 陽性細胞に由来することが分かっている。膵臓は、前腸内胚葉から発生し、初期に隣接する脊索から分化を維持するシグナルを受け取り、次に隣接してくる背側大動脈よりシグナルを受けて、成熟化していくことが知られている。しかし、最初の Pdx1 の 発現誘導のメカニズムについては、全く不明であった。

  今回、勝本恵一博士(グローバル COE リサーチ・アソシエイト;現在、スイス連邦工科大学スイス実験がん研究所に留学中)は、膵臓形成の最初のイベントである Pdx1 発現誘導過程に、 angioblast (血 管芽細胞)が深く関与していることを突き止めた。

  勝本らは、以前の論文で、ニワトリ胚を用い、詳細な細胞運命予定地図を作製し、予定膵臓領域を明らかにするとともに、初期内胚葉の領域化は、胃、腸、膵臓の順番に起こり、膵臓は、内胚葉と中胚葉の移動速度の差により生じた“ずれ”によって生じる説を提唱した ( Katsumoto et al., 2009 ; Matsuura et al., 2009 )。

本研究で詳細に解析したところ、初期の Pdx1 の 発現は体節間で起こりはじめることを発見した。また、 Lmo2Tal1 Kdr, Cd34 を発現している 血 管芽細胞がそれに隣接していることがわかった。さらに、細胞移動に重要な働きを持つケモカイン ( CXCL12, CXCR4 )が、 血 管芽細胞 と 初期内胚葉に発現していることもわかった。 Cxcl12 を異所的に強制発現させたところ、 血 管芽細胞が異所的に Cxcl12 を発現している領域へ遊走され、 Pdx1 発現領域が拡大し、インスリン発現領域(膵 β 細胞)ならびに膵臓が拡大した。一方、 CXCR4 の阻害剤である AMD3100 で胚を処理したところ、 血 管芽細胞の遊走が阻害され、血管形成のタイミングが遅れ、 Pdx1 発現領域が縮小し、インスリン発現領域および膵臓が縮小した。まとめると、重要な発見は以下の2点である。

1)膵臓の起源は、初期内胚葉が 血 管芽細胞と出会うことからはじまる (図)。

2)ケモカインシグナル ( CXCL12, CXCR4 )は、膵臓( Pdx1 発現 )を誘導するために、 血 管芽細胞が適切なタイミングかつ場所に遊走できるように、その動きを時空間的に制御している(図)。

本研究は、これまで全く不明であった“膵臓形成のはじまり”を初めて解き明かした研究で、 Development 誌 4 月 27 日付けの 電子版、同誌 5 月号 に 掲載され、巻頭の“ In this Issue”で紹介される予定である。 

 

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図.血管芽細胞は、初期膵臓領域の規定に関与している

 

ケモカインシグナル ( CXCL12, CXCR4 )は、血管芽細胞と初期内胚葉の双方に発現している。ケモカインシグナルは、適切なタイミングで、血管芽細胞が膵臓領域に移動できるように、時空間的に制御している。血管芽細胞は、初期体節期の予定胃と膵臓領域に現れる。しかし、予定胃領域の運命がすでに決定されているため、血管芽細胞からのシグナルには予定膵臓領域のみが反応する( Katsumoto et al., 2009 )。このように、 Pdx1 誘導シグナルに対する内胚葉側の反応性と血管芽細胞に出会うタイミングにより、初期膵臓領域が決定される。