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分  野分子細胞制御分野
掲載日2012年 5月 15日
タイトル
線虫 fidgetin ホモログ FIGL-1 の細胞内機能には SUMO との結合が重要である

Akinobu Onitake, Kunitoshi Yamanaka, Masatoshi Esaki, Teru Ogura
Caenorhabditil elegans fidgetin homolog FIGL-1, a nuclear-localized AAA ATPase, binds to SUMO

Journal of Structural Biology, in press

 AAA(ATPases associated with diverse cellular activities) タンパク質とは、よく保存された ATPase ドメインを共通に持つ分子シャペロンである。 AAA タンパク質の機能はエネルギー依存的タンパク質分解、膜融合、オルガネラの形成・維持、遺伝子の転写・複製・組換えなど極めて多岐にわたっているが、それら自身の細胞内局在や相互作用因子がこれらの特異的な細胞内機能を決定付けている。
 今回、分子細胞制御分野(小椋 光教授)の鬼武彰宣(博士課程大学院生)らは、内耳や目の発達異常や行動異常を示す fidget 変異マウスの原因因子で、 AAA タンパク質の一つである fidgetin に関して、その線虫ホモログである FIGL-1 を用いた細胞内機能解析を行った。その結果、 FIGL-1 の細胞内局在および局在決定シグナル、また FIGL-1 と相互作用する因子を明らかにした。まず、免疫抗体染色により FIGL-1 は核に局在することを確認し、 FIGL-1 の N 末端 PKRVK 配列を核移行シグナルと同定した(図)。この核移行シグナルに変異を導入した FIGL-1 は、 figl-1 欠失変異を相補できなかった。このことは FIGL-1 が機能するためには核に局在することが重要であることを示している。さらに FIGL-1 は SUMO (翻訳後修飾因子の一つで、 タンパク質を修飾し、クロマチンや核構造の安定化、転写活性調節などの様々な核内機能に関与する )の線虫ホモログ SMO-1 と in vitro 、 in vivo において特異的に相互作用することを新たに見出した(図)。興味深いことに FIGL-1 、 SMO-1 をそれぞれノックダウンした線虫変異体は共に生殖腺形成不全を起こす。このことは FIGL-1 と SMO-1 の相互作用が線虫の発生、特に生殖腺形成に重要な役割を担っていることを示唆している。また SMO-1 と結合できない変異 FIGL-1 は、 figl-1 欠失変異を相補できなかった。従って、 FIGL-1 の細胞内機能には SMO-1 との相互作用が必須であることが示された。 一方で、近年 fidgetin を欠損させたマウスが口蓋裂を発症することが報告されたが、 SUMO の変異マウスもまた、口唇裂、口蓋裂を発症することが報告されている。さらに口唇、口蓋の発生に必要な転写因子が SUMO 化を受けることが明らかとなった。本研究は、 fidgetin (FIGL-1) が核に局在し、 SUMO 化タンパク質と特異的に相互作用することを明らかにし、 fidgetin ・ SUMO 化転写因子が関連する疾病の発症機構に示唆を与えた。 これらの研究成果は、 J. Struct. Biol. 誌電子版に先行掲載された。

 

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図: FIGL-1 の核局在と SMO-1 との相互作用

 

(A) 野生型 FIGL-1 を HEK293 細胞で発現させると、 FIGL-1 は核に局在することが観察された。一方で、 PKRVK 配列を PNNVK 配列に置換した変異 FIGL-1 は核に局在せず、細胞質に移行した。従って、これらのアミノ酸配列を FIGL-1 の核移行シグナルと同定した。染色体を DAPI にて、微小管を a -tubulin 抗体でそれぞれ染色した。
(B)FIGL-1 と SMO-1 の精製タンパク質を用いて pull down assay を行った。コントロールの GST では FIGL-1 は共沈しないが、 SMO-1-GST では FIGL-1 が共沈する(左図)。 FLAG-SMO-1 を発現させた線虫細胞抽出液を用いて免疫沈降を行った。 SMO-1 と共に内因性の FIGL-1 が共沈する(右図)。従って、 FIGL-1 は SMO-1 と in vitro in vivo において相互作用する。