Nobuaki Shiraki, Taiji Yamazoe, Zeng Qin, Keiko Ohgomori, Katsumi Mochitate, Kazuhiko Kume and Shoen Kume (2011) Efficient differentiation of embryonic stem cells into hepatic cells in vitro using a feeder-free basement membrane substratum, PLoS One 6(8):e24228. doi:10. 1371/journal.pone.0024228
胚性幹( ES )細胞は、個体を構成するすべての組織細胞に分化する能力をもった細胞であり、発生分化のメカニズムを研究するツールとして有用であるだけでなく、再生医療における細胞移植の細胞源としても注目されている。多能性幹細胞分野(粂 昭苑教授)では、初期内胚葉発生機構の解明を目指して ES 細胞を用いた分化誘導研究を行っている。同分野の白木伸明助教らは、これまでに中胚葉由来の培養細胞株 M15 細胞を用いて内胚葉組織である膵臓および肝臓を効率的に分化誘導する方法を報告しており( Shiraki et al., Stem Cells, 2008; Shiraki et al., Genes Cells, 2008 )、これらの研究で得られた知見を利用して、擬似基底膜( synthesized basement membrane, sBM )を用いた膵臓分化誘導系の開発にも成功している( Higuchi et al., J Cell Sci, 2010 )。
今回、白木らは、マウスおよびヒト ES 細胞から支持細胞および血清を用いずに肝臓を分化誘導する方法を構築し、報告した。無支持細胞・無血清での分化誘導には、国立環境研究所の持立克身博士らのグループが作製した擬似基底膜を使用した。擬似基底膜を用いて分化誘導したヒト ES 細胞由来の肝臓細胞(図)は、アルブミンを分泌し、薬物代謝酵素活性を示した。さらに、基底膜からの誘導メカニズムを解析した結果、基底膜成分であるラミニンのシグナルがインテグリンを介して伝達され、 Akt ( プロテインキナーゼ B) のリン酸化を介して、肝臓分化を誘導していることを見いだした。今回、開発した方法やそこから得られるヒト ES 細胞由来の肝臓細胞を利用することで、肝臓分化機序のさらなる解明や新薬の安全性評価および薬理評価への応用が期待される。本研究は、熊本大学発生医学研究所「発生医学の共同研究拠点」事業で平成 22 年度採択課題として行われたものである。この研究成果は PLoS One 誌に掲載された。
図 sBM 上で 30 日間分化誘導したヒト ES 細胞( khES3 )。矢印は、 2 核の肝臓様構造を示している。