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分  野脳発生分野
掲載日2018年4月3日
タイトル
脳のシワ形成モデルとしてのモルモット脳の発達様式

Jun Hatakeyama, Haruka Sato and Kenji Shimamura.

Developing guinea pig brain as a model for cortical folding

Develop. Growth Differ. 2017 May;59(4):286-301.

*equal contribution

 大脳は認知や記憶などの高次機能を司る組織であり、特にヒトを含む霊長類などにみられるシワ(脳回・脳溝構造*1)はこれらの高次機能発揮に重要であると考えられています。近年、シワがない滑脳のマウスの大脳発生の基本原理についての理解は進みましたが、脳回・脳溝が作り上げられるメカニズムについては不明な点が多く残されています。

モルモット(英語ではguinea pig)はマウスと同じ齧歯類でありながら脳回・脳溝を持つ皺脳動物です。これまで脳回・脳溝形成の研究に用いられてきたサルやフェレット(イタチ科の哺乳類)に比べて、モルモットは飼育が容易で実験動物としての供給も安定しているなどの研究上のメリットを持ちますが、大脳の発生について調べた研究は少なく、脳回・脳溝の発達過程も不明でした。

 今回、脳発生分野(嶋村健児教授)の畠山淳助教と佐藤晴香研究員は、脳回・脳溝形成期を含む胎生期から生後にかけてのモルモット大脳の発生過程を詳細に解析しました(図1)。また、マウスの大脳研究において主流の解析方法である子宮内エレクトロポレーション法*2をモルモット胚に応用する手技の確立にも世界で初めて成功しました(図2)。これにより脳回・脳溝形成メカニズムについての研究が加速することが期待されます。

 モルモットは、大脳の片半球に2本しか脳溝を持ちませんが、それは、皺脳動物に共通する主要な脳溝に相当します。実は、哺乳類の共通祖先はシワをもっていたという説があり、モルモットの脳回・脳溝パターンは原始的な脳回・脳溝に近い可能性があります。モルモットは、進化的に霊長類に非常に近く、脳回・脳溝の組織学的特徴が霊長類と酷似していることがわかりました。今回の研究により、モルモットは、ヒトを含む霊長類の脳回・脳溝形成を解明するためのモデル動物として非常に有用であることが分かり、今後脳のシワと高次機能の関係の解明が期待されます。

本研究成果は、2017年5月Develop. Growth Differ. 誌第59巻4号に掲載されました。

 

 

用語説明:

*1 大脳皮質の隆起した部分である「脳回」と窪んだ部分である「脳溝」からなる組織構築のこと。一般的には「脳のシワ」と呼ばれる。

*2 胎児に対する遺伝子導入法の1つ。DNA溶液を脳に注入して電気パルスによりDNAを細胞内に導入させることで、任意の遺伝子を発現させることができる。子宮を切開することなく外側から行うため、胎児の生存率が高い。