ニュープレス

⇒NewPress一覧へ

分  野組織幹細胞分野
掲載日29-Mar-2022
タイトル
胎生期におけるマスト細胞の新しい発生経路を発見

Mariko Tsuruda, Saori Morino-Koga, Minetaro Ogawa

Hematopoietic Stem Cell-Independent Differentiation of Mast Cells From Mouse Intraembryonic VE-Cadherin+ Cells

Stem Cells. 2022: doi: 10.1093/stmcls/sxac001.

https://academic.oup.com/stmcls/advance-article/doi/10.1093/stmcls/sxac001/6516993?guestAccessKey=9570bafc-827d-4986-a02b-1f1b6407d37e

 花粉症などのアレルギー反応に関わるマスト細胞は、骨髄で血球を産生する造血幹細胞が起源であると考えられてきました。今回、組織幹細胞分野の鶴田真理子(博士課程大学院生)、古賀沙緒里助教、小川峰太郎教授は、上記の経路だけでなく、造血幹細胞を介さずにマスト細胞が発生する新しい経路を発見しました(概略図)。

 

概略図:胎生期におけるマスト細胞の発生経路

従来、マウス胎仔の背側大動脈の内皮細胞は、造血幹細胞へ分化した後にマスト細胞を産生すると考えられてきた。今回、従来の経路に加えて、造血幹細胞を経ないマスト細胞の新しい発生経路を発見した。2つの経路を経て分化したマスト細胞は、成体の腹腔内のマスト細胞として存在する可能性が示唆された。

 

 

 造血幹細胞は、胎生期において背側大動脈の内皮細胞から発生します。本研究では、内皮細胞からマスト細胞が効率よく分化する培養系を新たに確立しました。この培養系を用いてマウス胎仔の内皮細胞を培養すると、多くのマスト細胞は、造血幹細胞を経ずに発生することが分かりました。さらに、胎仔の内皮細胞を新生仔の腹腔内へ移植し、移植されたマウスが成体になった後に腹腔を調べると、胎仔の内皮細胞から分化したマスト細胞が存在しました。これらの結果は、胎仔の内皮細胞が、造血幹細胞の発生と無関係にマスト細胞を産生し、その一部が腹腔のマスト細胞として働いている可能性を示します。

 

 近年、一部の免疫細胞は、胎生期の発生起源により、末梢組織における局在や機能が異なることが報告されています。本研究は、マスト細胞の個体発生における新たな視点となり、発生起源と局在や機能の関係を解明することに繋がります。

 

 本研究成果は、STEM CELLS誌に2022年2月28日に掲載されました。本研究は、日本科学協会の笹川科学研究助成による支援を一部受けて実施されました。

 

 

[用語解説]

・マスト細胞:ヒスタミンなどを含む顆粒をもつ免疫細胞。IgEを介した脱顆粒はアレルギー反応を引き起こす原因となる。一方で、寄生虫感染に対する生体防御にも寄与する。腹腔や皮膚などの結合組織や腸や肺などの粘膜組織に広く分布する。

・造血幹細胞:自己複製能と全ての血液細胞に分化できる多分化能を有する細胞。胎生期に背側大動脈の内皮細胞から発生する。成体では骨髄で維持され、体内の血液細胞を保っている。造血幹細胞を放射線照射したマウスへ移植すると、骨髄で造血が再構築される。この能力を指標にして、造血幹細胞の存在が証明される。

・内皮細胞:血管の最も内側を裏打ちする細胞。