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分  野組織幹細胞
掲載日26-Oct-2021
タイトル
成体型血液細胞の発生を促進するシグナル因子の発見

Mariko Tsuruda, Saori Morino-Koga, Minetaro Ogawa

Bone morphogenetic protein 4 differently promotes distinct VE-cadherin + precursor stages during the definitive hematopoietic development from embryonic stem cell-derived mesodermal cells.

Exp. Hematol. 2021: doi: 10.1016/j.exphem.2021.08.008.

 白血球や赤血球などの血液細胞は、様々な血球へ分化できる能力(多分化能)と自らを複製する能力(自己複製能)を併せもつ「造血幹細胞」によりバランスよく維持されています。成体では造血幹細胞は骨髄に存在しますが、その最初の発生は胎生期に遡ります。造血幹細胞を含む成体型血液細胞の発生は、複数の前駆細胞(側板中胚葉細胞、血管内皮細胞、血管内皮由来造血前駆細胞)の分化を経由します。この発生過程では、多数のシグナル因子により分化が調整されています。シグナル因子の1つであるBMP4は造血幹細胞の発生に関与することが報告されていますが、BMP4がどの前駆細胞に対して、どのように作用するのかは明らかになっていませんでした。

 

 今回、組織幹細胞分野所属の博士課程大学院生である鶴田真理子は、古賀沙緒里助教、小川峰太郎教授とともに、BMP4が血管内皮由来造血前駆細胞の発生を促進することを発見しました。マウスES細胞を用いて、側板中胚葉細胞、血管内皮細胞、血管内皮由来造血前駆細胞を誘導できる培養系を作成し、各前駆細胞に対するBMP4の作用を調べました。その結果、BMP4は側板中胚葉細胞から造血性をもつ血管内皮細胞への分化を促進することがわかりました。さらに、BMP4は、血管内皮由来造血前駆細胞の増殖も促進し、多分化能をもつ血液細胞を増やすことも分かりました。これらの結果から、BMP4は血管内皮由来造血前駆細胞の発生を促進することで、造血幹細胞の発生を促進する可能性が示唆されました。本研究結果は、ES細胞やiPS細胞から造血幹細胞を誘導する培養系の構築に役立つことが期待されます。本研究成果は、Experimental Hematology 誌オンライン版に2021年8月28日に先行掲載されました。

 

図: ES細胞から成体型血液細胞への分化過程におけるBMP4の作用

マウスES細胞から誘導した側板中胚葉細胞を、間葉系のストローマ細胞株と共凝集して培養した。この系では、側板中胚葉細胞は血管内皮細胞および血管内皮由来造血前駆細胞を経て、成体型血液細胞へ分化する。この分化過程で、BMP4は側板中胚葉細胞から造血性をもつ血管内皮細胞への分化と血管内皮由来造血前駆細胞の増殖を促進することが明らかとなった。

 

[用語]

側板中胚葉細胞:発生中の胚において、将来、心臓、血管系、血液細胞、平滑筋系などを形成する細胞群。