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分  野腎臓発生分野
掲載日16-Nov-2020
タイトル
発生期腎臓の成熟段階を反映する遺伝子群の同定

Hidekazu Naganuma, Koichiro Miike, Tomoko Ohmori, Shunsuke Tanigawa, Takumi Ichikawa, Mariko Yamane, Masatoshi Eto, Hitoshi Niwa, Akio Kobayashi, Ryuichi Nishinakamura. Molecular detection of maturation stages in the developing kidney. Developmental Biology, in press (2020)

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012160620302943

 腎臓発生分野(西中村 隆一教授)は、ヒトiPS細胞から腎臓組織 (腎オルガノイド) を試験管内で誘導することに成功し (Taguchi et al. Cell Stem Cell 2014&2017)、これを移植するとさらに発生が進むことも報告してきました (Sharmin et al. J Am Soc Nephrol 2016, Tanigawa et al. Stem Cell Reports 2018&2019)。 しかしこれらの腎オルガノイドは依然未熟であり、胎生初期から中期に相当すると考えられています。腎オルガノイドをさらに成熟させるためには、その成熟ステージを判定することが必要ですが、生体の腎臓ですら成熟ステージ毎にどのような遺伝子が発現しているかほとんどわかっていませんでした。これは腎臓という臓器が、発生が進むほど多種類の細胞から構成されるようになることも一因です。

 

 そこで腎臓発生分野の長沼英和(九州大学泌尿器科所属、特別研究学生)、三池浩一郎(技術補佐員) らは、複数の発生段階のマウス腎臓を用いてシングルセルRNAシークエンス (scRNA-seq) を行いました。そして胎生中期(15.5日)と出生時(19.5日)の遺伝子発現を比較することで、各細胞種において成熟ステージと相関する遺伝子群を同定しました。典型的遺伝子に関しては組織学的にも発現を確認しました。さらにこれらの遺伝子リストを、胎生初期のマウス腎臓を移植したものに適用したところ、大部分の細胞種は出生時相当まで成熟していたものの、集合管はそうでなく、成熟が均一に進んでいないことが判明しました。よって我々のscRNA-seqデータと遺伝子リストは、腎臓成熟の分子的座標軸として有効であることが示されました。

 

 本研究は、scRNA-seq を駆使して腎臓成熟過程の「物差し」を決定したもので、臓器成熟の分子機構に迫る基盤となるものです。またこれを元にした腎オルガノイド成熟法の改善も期待されます。本研究成果は、Developmental Biology オンライン版に2020年11月14日先行掲載されました。

 

※本研究は文部科学省科学研究費補助金の支援を受けました。

 

図 成熟ステージによって発現が変化する遺伝子の例

(A) scRNA-seqによるCyp27b1発現細胞のプロット。 左:胎生15.5日、右:出生時。

(B) Cyp27b1 の組織学的発現解析。 左:胎生15.5日、右:出生時。 スケールバー: 200 µm.