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分  野生殖発生分野
掲載日2019年5月7日
タイトル
CRISPR-Cas9遺伝子改変技術を用いた効率的なショウジョウバエGFPノックイン系統の作出

Kina, H., Yoshitani, T., Hanyu-Nakamura, K. and *Nakamura, A. (2019). Rapid and Efficient generation of GFP-knocked-in Drosophila by the CRISPR-Cas9-mediated genome editing. Develop. Growth Differ. in press.

doi: 10.1111/dgd.12607.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/dgd.12607

https://doi.org/10.1111/dgd.12607

CRISPR-Cas9技術はゲノム編集の強力なツールとして様々な生物で使用されています。CRISPR-Cas9技術では、わずか20塩基の相補的配列を持つshort guide RNA (sgRNA)によりゲノム上の標的配列が認識され、Cas9ヌクレアーゼにより標的配列の二本鎖切断(DSB)が引き起こされます。切断されたゲノムDNAは非相同末端連結(NHEJ)により修復されますが、その際に欠失や挿入が起こり、フレームシフト変異が誘発されます。一方、切断部位と相補的な配列を持ったドナープラスミドを共存させると、相同組換え(HDR)によりDSBの修復が行われます。この修復の際にドナー配列に人為的変異やタグ配列を導入することにより、様々なゲノム編集をデザインすることが可能です。

 このようにCRIPSR-Cas9技術は高効率なゲノム編集を行うことを可能としていますが、目的のゲノム編集を受けた個体を同定する作業が律速段階となっています。ショウジョウバエでは、可視化できるマーカー(例えば眼でGFPを発現する3xP3-GFPカセットなど)を挿入することで、ノックイン系統を同定する手法が用いられています。しかし、このようなマーカーカセットは、標的部位へ挿入することにより、近傍の遺伝子発現に影響を与える可能性があります。そのため、ノックイン系統の樹立後、リコンビナーゼによる組換え等により、マーカーカセットを取り除く必要がありました。 

 今回、生殖発生分野(中村 輝教授)所属の薬学部薬学科学生である、喜納寛野と吉谷 崇らは、PCRを用いたノックイン個体選別法を用いることにより、効率的にGFPノックイン系統を作成する手法を報告しました。本手法では、マーカーカセットの使用やsgRNA発現系統を事前に作成する必要がなく、Cas9/sgRNA発現プラスミドとドナープラスミドをショウジョウバエ胚にインジェクション後、約4週間でゲノム編集個体を同定し系統化することが可能です。この手法を用いて、様々な細胞内のオルガネラや特異的細胞種を可視化するGFP発現系統を作成しました。これら系統は京都ショウジョウバエストックセンター(https://kyotofly.kit.jp/cgi-bin/stocks/index.cgi)より近日中に配布可能となり、非営利団体に所属する研究者は自由に使用することができます。本研究成果は、Development Growth & Differentiation 誌のオンライン版に2019年4月29日先行掲載されました(https://doi.org/10.1111/dgd.12607)。

 

 

図 CRISPR-Cas9技術を用いた効率的なショウジョウバエGFPノックイン系統の作出

ドナープラスミドとCas9/sgRNA発現プラスミドを、初期胚に顕微注射することにより、効率的にGFPノックイン系統を作出することができる。PCRを用いたノックイン系統のスクリーニングを行うことにより、①マーカー遺伝子の挿入、②挿入されたマーカーカセットの除去、上記2つのステップを省くことができ、大幅な時間短縮が実現した。