【日時】 令和元年 5月14日(火) 17:00~18:00
【会場】 発生医学研究所 1階カンファレンス室
【要旨】
私は、マウスにおける「生理学的」及び「行動学的」解析を中心に、様々な精神疾患の発症機構の解明とその治療薬開発を目的とし研究している。本セミナーでは、これまで私が行ってきた研究の中から、 T 型カルシウムチャネルの生理機能解析と精神ストレスとの関与についてご紹介する。
T 型カルシウムチャネルは低閾値で活性化され、一過性に開口する電位依存性カルシウムチャネルである。睡眠やてんかん発作に関与することが知られているが、その生理学的役割の詳細な解析や T 型カルシウムチャネルを標的とした創薬研究は未だ行われていない。通常、野生型マウスは精神ストレス負荷によりうつ様行動を呈するが、 T 型カルシウムチャネル欠損マウスではストレス負荷によるうつ様行動がみられないことを見出した。また、ストレス負荷後、脳スライスを作製しホールセルパッチクランプ法による生理学解析を行ったところ、野生型マウスの興奮性神経伝達は低下しているが、 T 型カルシウムチャネル欠損マウスでは変化が見られないことがわかった。さらに、光遺伝学を用いてマウス脳の抑制性神経を人為的に制御するシステムを構築し、うつ様行動との関連性を検討した。光依存性に抑制性神経を活性化したマウスはうつ様行動を示した。また、ストレス負荷によりうつ様行動を示したマウスの抑制性神経を光依存性に不活性化したところ、うつ様行動が消去された。つまり、ストレス性うつ病の発症には抑制性神経活動の亢進が関与し、 T 型カルシウムチャネルが抑制性神経の活性化に必須であることが示された。現在、 T 型カルシウムチャネルの新規阻害薬を数種見出しており、ストレス性うつ病に対する新しい標的となる可能性を検討している。また講演では、これまで行ってきた「生理学的」及び「行動学的」解析を生かした、今後の研究の展望に関してもお話ししたい。
【連絡先】熊本大学 発生医学研究所 ゲノム神経学分野 塩田 倫史(内線番号:6633)